このとうりだったと思う。われわれ日本人はどうしても、真珠湾での勝ち戦後、傲慢になっていく軍部というある面、誤った歴史感を持っている。しかし、森氏は容赦な
き真実を突きつける。それは、戦後もフアンの多い山本五十六提督のことである。これでもかと面罵する。正しいのである。
ミスキャストではすまされない。本人が降りればよいのであり、東郷さんに比べるとまずもって現場に出ないだめ社長であり、有名な「半年はまず暴れることは可能
でも」のせりふも、どうも後の人がとってつけたように思える。まずは情の人であり、戦いの武士ではない。
この点真珠湾の寝込みを襲われた、米国軍の下から上までの軍人は、「すでに30分後には反撃している。」と攻撃機の隊長の言葉を引用し物量だけのアメリカ軍でな
いことを、公平に活写している。
第二次攻撃隊は、その恐るべき高射砲や速射砲の弾幕に恐れおののくも、上部の司令官は無視している。
この恐るべき防御力こそ、後の
ミッドウェー海戦にいかんなく発揮されるも精神論だけで何の反省も工夫もしていない。
いやいや来るぐらいだったら、井上多聞少将に譲れやこの軍務官僚どもはといいたくなる筆者の気持ちが、名もなき戦闘員のとまどいと死をとむらうきもちとして
ひょうげんされている。
まったくもつて、完全な勝利とはいえない戦(いくさ)であったと、通説を覆している。
また、最終的には軍部の作為と野村大使の不作為であったとしても、だまし討ちのそしりはまぬがれえないと、厳しい。ルーズベルトの嫌日・好中の理由を述べるも
陰謀論などは意味がないと談じている。
とにかく、「なぜこの戦争が起こったかではなく、日本人が米国人がどのように戦い、どのようなミスを犯したか」を論じているのであるが、真実は細部に宿る、
ことを考えると、一つ一つのディテールも重要である。また一人ひとりの戦いぶりも、上は提督から、下は下士官にいたるまで知っておく必要がある。
この名著は後の
ミッドウェー海戦などにも活かされている。このようなおろかな柱島の馬鹿社長どもに命じられ散華した数百万の若者が哀れでならない。
今年も、二度と過ちを繰り返しませんではまことに英霊にあいすまないのであり、森氏のような語り部がその若者たちの声なき声をすくわなければ、その御霊は
いつまでも鎮まることはないだろう。心してすべての日本人はこの書を読むべきであろう。
司馬遼太郎氏がこの時代の、ノモンハン戦以降を題材にしなかったすべての理由がここにある。
本作は表題の通り「別冊
宝島 ビジュアル図解 連合艦隊全作戦記録(以下「連合艦隊〜」という)」のリメイクとなっているため
主にその比較について記す
リメイクである以上、執筆者や執筆内容などについては内田弘樹氏をはじめ両方ほぼ同じであるが
詳細については、本作の他の方のレビューや「連合艦隊〜」の方を参照されたい
1.全ページフルカラー化
「艦娘」のイラスト付きになっているのは勿論だが、特筆すべきは全ページフルカラー化していることである
写真についてもデジタル彩色が施されており、白黒写真よりも見栄えの良いものとなっている
各作戦における艦隊編成についても、艦娘のイラストを用いているため、視覚的に分かりやすい
2.ページ数増加
「連合艦隊〜」の方は全144ページであったが、本作は158ページと増加している
ただし、値段も「連合艦隊〜」の1500円から1800円と上がっているが、これについては十分許容範囲だろう
内訳としては「ヘンダーソン飛行場砲撃」などが追加されており、また、艦娘が各作戦冒頭に作戦概要を説明してくれているため
また、「連合艦隊〜」で説明がなかった艦(時雨、長波など)にも説明が追加されているのが嬉しい
3.一部記事の削除
「連合艦隊〜」にあった主要軍人記事、「連合艦隊写真館」などのコラム
そして、「ジャワ沖海戦」など艦娘該当艦非参加の作戦など、一部の記事が削除されている
購買ターゲットが「艦これ」で史実に興味を持った層であることを考慮すると、これは仕方のないことかも知れない
ただ、上記ページ数増加を考えると、各作戦概要により多くのページを費やしたことの裏付けとも言えるだろう
4.描きおろし艦娘ポスターの追加
これについては特筆する必要はないだろう
艦これショックの影響で連合艦隊関連の書籍が軒並み在庫切れを起こしており、それは「連合艦隊〜」も例外ではない
今amazonで確認したところ、「連合艦隊〜」はプレミア価格となっており、気軽に購入するには気が引けるものと思料される
本作もマーケットプレイスにおいて悪く言えば「足元を見た」価格が提示されているが
現在各書店において在庫は十分に見掛けられるので、そちらで購入される方が賢明であろう
【追記】
なお、「ペナン沖海戦」については本作、「連合艦隊〜」のどちらにも記述が有りません
淵田氏が真珠湾で何をしたのか、
ミッドウェイでどうだったのかは、映画や戦記で多少の知識は持っていたが、戦後をどのように生き抜いたのかは全く知らなかった。
ワシは戦記も好きだし、極地探検の話も好きだし、シビアな登攀記も大好きだ。極限の状態で個人やチームがどの様に行動したのか?何を考えていたのか?そこに至るまでにどんなト
レーニングを経たのか?興味は尽きない。本を読む楽しみの一つとして「追体験」を求めるワシとしては、これほど贅沢な題材は無い。
ここ数年の中では最高に感動した。まさしく小便に行く暇、寝る暇を惜しんで一気に読んだ。帯にある「史実の書き換えを迫る貴重な書である」というのはガセではない。どなたでも一読の価値はある。
映画「トラ・トラ・トラ」に於いて田村高広が演じた淵田氏と、本書の表紙で使用されている淵田氏の写真がそっくりだったのには笑った。元々、黒澤明がメガホンを執る予定だったあの映画、深作欣二監督の手に移っても、しっかり細かなディテールを踏襲したのだと今更になって気付いた。
言うまでも無いことだが、この自叙伝の論評や批判の争点の中心を戦争の是非にもっていくのはナンセンスだと思う。