文章から映像、臭い、温度、湿度、空気、が生々しく伝わってきた。普段は見過ごしてしまっている人間の情念や怨念を目の前に突きつけられた感じ。時代背景が現代(といっても昭和)だけど、どこか現実離れしているように感じてしまうのは、使われる言葉、登場人物の異様さのせいか。今の世の中を能天気で流れの速い川に例えるなら、そのずっと底の方で澱んでいる泥の中へ潜り込んでいく感じ。車谷長吉さんの作品は、これが初めて。これから全ての作品を読む事になると思う。
本作は、近松門左衛門作「曽根崎心中」の翻案であり、ストーリーはそのままに、角田光代が 遊女 初の口を借りて 元禄の浮世に彼女が夢見た儚い数日を描いたもの。
原作を知る者も 知らない者も 遊郭の淡い灯りを思い描き 初の言葉に身を委ねてもらいたい。次第に その時代 そこにいた人々 を肌に感じ そして ほんのりと浮かぶだろう 初の儚い夢現に包まれていく。
これだけ世に知られた原作にネタばれもないだろうが、原作では明らかになる心中のきっかけの真相が 本作ではラストで逆に曖昧なものとなっていく。(このネタが分からぬ場合、読後にwikipediaを一読いただきたい) この違いは、事実を知らぬ初 事実を疑う初 という大きな違いとなるが、その違いを味わうなら、角田光代の描こうとしたものに、より近づけるのではないだろうか。
浄瑠璃とも歌舞伎とも違う より映像的な世界に翻案されながら その映像は 元禄の遊女から 現代の私達が確かに受け止められる言葉になっている〜終盤 二人が見た あかり それを感じながら。
気に入った、と言うより、好きだから探してました。何度聞いても聞き惚れます。
手に入って本当に良かった。パワフルな声が元気にしてくれる。
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