日本古代史入門
独特の歴史観を提示する八切氏が、日本の古代にスポットを当てて解説したものです。
本書では正当歴史書である日本書紀などを徹底批判し、現在では地方にわずかに残されている伝承や地名などから、真の日本古代史を考察していきます。それによると、「日本は周辺の海流の終着地点であり、世界から様々な民族が上陸してきたので、単純な単一民族ではない。そして中国や朝鮮を中心とする大陸からの渡来人によって大多数の原住日本人は奴隷として支配された。」といった論が展開します。そして現在では批判どころか話すことすらタブーとされる天皇や被差別部落のルーツ、そしてこの両者の接点についても話を進めています。
著者の展開する論は「教科書的な歴史観」からは真っ向から対立するものですが、不思議と説得力はありました。そこには何らかの真実の一端が含まれているせいなのかもしれません。もちろん歴史は権力闘争の勝者によって都合よく改変されてきたのは、世界中はもとより、近代日本の自虐史観からも明らかです。八切氏の提示する歴史観には資料が乏しいことから信憑性については何とも言えませんが、その点からすれば日本書記という正に権力者側が作った資料をその根拠にして日本の歴史を語るのもナンセンスである、と思わずにはいられません。
本書はタブーを物ともせず縦横無尽に様々な事柄に切り込みながら古代史を探求していて、随所に著者の博覧強記ぶりがうかがえました。しかしその一方で、話題はあちこちに飛び、また文章にクセがあり読みにくさを感じました。もう少し論理的にまとまった形での著者の作品を読んでみたかった、と思います。
天の日本古代史研究
古代史研究といっても論文ではなく、多分に感覚的なエッセイに近い。日本原住民がインドの西や東南アジアから海を渡ってきた点、日本が単一民族ではない点、大和朝廷以前に日本原住民による「王朝」があった点などについて賛同する部分は多いが、その論証となると、現在まで残っている地名などの言葉だけが頼りになってしまうところが弱点ではある。それでも八切説に説得力があるのは、八切が展開する古代日本の世界が妙に辻褄が合ってしまうからだ。そこには日本原住民の悲しい歴史がある。節分や京都の大文字焼きの由来、この本のなかでは触れていないが、ねぶた祭りの由来などを聞かされると、ハッとさせられる。その洞察力には脱帽するしかない。八切史観が心に響くのは、真実の断片がちりばめられているからにほかならない。悪い冗談を集めたような偽の歴史書である『日本書紀』をまじめに読むぐらいなら、八切の本を読んだほうが、はるかに真実の歴史に近づけるのではないだろうか。