「黒髪」は作者の代表作と呼ばれている。ある芸者を一目ぼれした主人公(作者自身)が、久し振りに女に逢いに
京都に行く。彼は普段は東京に住んでいるのだが、女にこまめに手紙を書き送り、随分貢いでもいるらしい。全く返事をよこさぬ女を追って男は女のもとを訪れる。未練がましく図々しい男と、何か理由ありの煮えきらぬよそよそしい態度の女。その微妙なやり取りが、どこか俗っぽい古都の風情を背景にしっとりと描かれる。日本的な湿っぽい話だが、とても読みやすい。おそらく女は男に気はなく、男は体よく女に騙されていることが想像できるのだが、あくまで女を信じその面影を追い求める男(作者自身)の姿に妙な感動と共感を覚える。それらが近畿地方の風景や京の町並みの的確な描写とあいまって、この手の小説には珍しいスケール感の豊かさを味わうことができる。プライバシー問題のうるさい現代では、もうこういう小説は生まれないだろう。ああ、俺もこんな風にとことん一人の女を好きになってみたい!と思わせる小説です。(女にしたら迷惑な話だろうが)
3部作は、はっきり言えば物足りません。作者に、文句を言いたいのですが・・・。自分としては、書いてほしい部分はなくあまり知りたくない部分に説明があるように感じます。