「光琳を慕う 中村芳中」展の図録です。この
美術展は、2014年4月8日〜5月11日に千葉市
美術館でスタートして、5月24日〜6月29日は細見
美術館で開催されていました。今後、9月26日〜11月3日に岡山県立
美術館で開催される予定です。
当方は、先日細見
美術館で観賞した余韻を本書で味わっている所です。図録ですが、
美術館に行くことができなくても、これを見るだけでも価値があるでしょう。
細見
美術館によく行きますので、中村芳中が「たらし込み」を上手く使って素敵な絵を残しているのは見知っていますが、これだけまとまって観賞できる機会はめったにありません。その意味でも本書のような図録は貴重でしょう。なお個々の
美術館では、この図録掲載作品をすべて見ることはできません。前期・後期で入れ替えもありますが、それだけ掲載作品が多いわけです。
冒頭で、前甲南女子大学教授の木村重圭氏が「中村芳中について」として、琳派の系譜、芳中の生涯、芳中の家系・家族、「芳中」の名について、芳中 琳派へ、江戸下向と『光琳画譜』出版、芳中琳派の特色などを紹介してありました。そこでは「大らかで、かつ粘着質な画面を表出した」とし「大坂へ移り住んだことこそが、芳中芸術の展開と開華の原点」と記されていました。この掲載論文であまり知られていない芳中のイメージがつかめるでしょう。
図録掲載作品としては、尾形光琳の絵画が10点以上、尾形乾山の茶碗や向付などの名品、渡辺始興や深江芦舟などの作品が並んでいます。これらを観賞できるだけでも貴重な機会ですが、芳中の多くの作品と出会えるわけですから、好企画なのは間違いありません。
55ページ以降は「芳中の世界 親しみを招くほのぼの画」という章立てでした。得意の「たらし込み」を駆使した作品群が並びます。愛らしくて面白い描き方です。たらし込みの画風は近現代絵画にも通ずる美の源流のようでした。また「芳中」という銘に特徴があっていずも関心をよんでみていました。具体的には本図録を参照して追ってください。「扇面貼交屏風」などは実にデザインの良さを感じさせるもので、このセンスが現代人に評価されるのでしょう。
116ページの「落下鶴図」も観賞しましたが、このような描きた方の鶴はまず見ません。感性の面白味がでています。ここまで芳中作品だけで100点を越えているのですから、その網羅性は相当なものでした。
第3章「芳中のいた大坂画壇」も良い編集でしょう。木村蒹葭堂も数点掲載してありますし、同じ様な画風の絵師も相当数登場します。ここに掲載されている絵師をほとんど知りませんが、並べることで特徴が伝わってきます。芳中は影響を受けたのでしょうが、独自の画風の確立を果たしたのは立派なものです。
なお、所収の論文として伊藤紫織氏(千葉市
美術館学芸員)の 「光琳追慕の諸相 中村芳中と酒井抱一」、福井麻純氏(細見
美術館主任学芸員)の「芳中画の魅力 『光琳風』が示すもの」、中村麻里子氏(岡山県立
美術館主任学芸員)の「中村芳中と交流した備讃ゆかりの大坂画人 大原東野・淵上旭江らの活動に注目して」の3つの力作が集められていました。
235ページ以降の作品解説もこの3人の学芸員の見解が示されています。力の入った作品解説だったと思いました。それだけこの企画に思い入れがあるのかもしれません。