マシーセンの作品を読むには相当の覚悟が必要。本作も特に前半は仏教、ヒンズー教、イスラム教等の難解な宗教が記述され、正直かなり困憊する。ところが後半、雪豹、
オオカミ、ヤク、そして
雪男を初めとする動植物、そして苦楽をともにしたシェルパへの想いなど、文明化に毒された下界人間が、最高峰のヒラヤマで過ごしてきて、徐々に変化する自己の内面描写は心が振るわされる。
自然をモチーフにしたノンフィクション作家は沢山いるが、中でもマシーセンは素晴らしいの一言に尽きる。本作品はその極めつけ。
天に最も近いヒラヤマから星、月をみて思う宇宙観、自然の中における人間の存在性、ヒラヤマのシャンバラ伝説、死に対する想念。ほんの少しだけ理解できた気がする。
そういえば、本作を読み終えて、井上靖の「星と祭」を思い出した。人間が人間であるべき答えは、(生物学的な)母なる海ではなく、(宇宙や精神的な)星や天に最も近いヒラヤマにあるのだろうと感じた。