著者の石川英輔氏は御年80歳、「江戸研究の第一人者」として実に多くの著作を世に問うてこられた方です。本書は2009年12月に単行本として刊行された書籍を文庫化したものでした。
錦絵、小説の挿絵、地誌類の挿絵、絵本類から多くの図版を転載してあり、視覚に訴える編集は、初学者にとって分かり易く伝わってきました。
服装や風俗、道具、営み、商売ほか可視化されることでより身近に江戸時代を知ることができる好著でした。
目次は、江戸を絵で見る、江戸の食さまざま、江戸の魚河岸・青物市場、江戸の酒、江戸の着物、明かり、江戸時代のお金、明六ツ、暮六ツの世界、旧暦の世界となっています。
流石にこれだけでは中身が分からないでしょうが、どの項目も具体的な説明が楽しませます。まるで江戸時代に生活していた方が現代にタイムスリップしたように受け取るほどでした。
料理屋の
番付や飲食店の多さなど、見知らぬ知識のオンパレードです。76ページの「巨大都市の食べっぷり」でより詳しく江戸時代の人々の食生活が語られていました。江戸が面積、人口とも当時の世界での巨大都市であったという例証も記されています。生産と流通が発達していたのは間違いありません。
お酒の飲みっぷりや上方からの下り酒の値打ちや当時の精米技術なども記載してあります。醸造酒の歴史を簡単に知ることができる本でもありました。
随所に蘊蓄の深さと見識の高さが伺えました、
江戸の青物市場の項目にあるように、江戸市中に出回った青物類が96ページに掲載されていますので、ご紹介します。当然旧暦ですので。
正月:山の芋、うど、なずな、生椎茸。
二月:蓮根、三つ葉、せり、木の芽、生姜、みょうが、春菊。
三月:ふき、新ごぼう、わらび、あさつき、わけぎ、いんげん、筍。
四月:きゅうり、そらまめ、自然薯、糸三つ葉、初
茄子、青ずいき。
五月:
茄子、白瓜、ささげ、いんげん豆、枇杷。
六月:まくわ瓜、西瓜、桃、生姜、糸瓜。
七月:ずいき、なた豆、秋桃、唐辛子、冬瓜、長
茄子、唐
茄子。
八月:枝豆、葉しょうが、秋
茄子、しそ、初茸、松茸、梨、柿、葡萄。
九月:大根、さつま芋、栗、美濃柿、八つ頭芋、しその実。
十月:ねぎ、沢庵用干し大根、根せり、焼き芋。
十一月:ほうれん草、切干大根、かんぴょう、かぶ菜、漬け菜。
十二月:つくし、よめ菜、水菜、もやし三つ葉、紀州みかん。