非常に興味深く面白いのだが、悲しいというのが、率直な感想。 30歳代以上で、漫画が好きな人たちにとっては、子どもの頃にマンガを夢中になって読んでいた自分を思い返しながら、読めるだろう。 漫画に映画的手法を取り入れて、漫画の大きな可能性を示した手塚治虫。児童漫画を書き続け、すべての世代に愛されるキャラクターを作り上げた藤子不二雄。SF、ギャグ、ナンセンスを漫画に取り入れて新しいジャンルを開拓、確立した赤塚不二夫。漫画家を希望しながらも、天才を支え続ける裏方に自分の存在意義を見出した著者が青年期から手塚治虫死去までの日々を振り返る。 漫画という未開のジャンルを開拓する喜び、漫画を書く才能で悩む若者たち、そして、若いだけに起こる別離と出会い…。下手な小説よりも面白い。 印象的だったのは、赤塚不二夫が漫画家だった友人の妻に「うちの人の生活、どうしたらやめてくれるんでしょう。赤塚さん助けてください」と請われた時に、彼が「でも、俺に助けてくれと言われても、おれ自身が依存症だものなあ…」というくだりは、とてもやるせなかった。次々に友人と今生の別れが襲い、赤塚自身も漫画に対しての情熱を失い、アルコールに溺れてい続けていく。そして、思いがけない形で著者と赤塚の関係は終わりを告げてしまう…。 現代のマンガ界に対して意見を書くわけでもなく、黎明期の漫画を取り巻く状況を当事者の目で淡々と描かれている。そして、漫画界への希望や要望がないまま本書が終わってしまうのは、彼が愛した漫画はもはやなくなっているのかもしれない。
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