Facebookを題材にした本としては、映画「
ソーシャル・ネットワーク」の原作本、ベン・メズリック『facebook』青志社もあるけれど、それよりもこちらの方が断然オススメ。
ベン・メズリックの方は、映画の原作ということもあり、ザッカーバーグがFacebookを立ち上げる過程で巻き起こしたさまざまな軋轢を、描いていて、面白かったことは面白かったのだが、ザッカーバーグに取材をしていないということで、あまり、Facebookの成長の過程とかは描かれていない。
逆に、この本は、著者がザッカーバーグに密着していて、ここまでFacebookが世界最大の巨大なSNSに成長していくにあたり、どのような問題にザッカーバーグを始めとするFacebookのメンバたちが直面し、どのような決定を行ってきたかをつぶさに描いていて、非常に面白い。
彼らが直面してきた問題には、財務的な問題もあれば、アプリケーションの機能拡張の問題、さらにはFacebookが常に頭を悩ましてきたプライバシーの問題と、さまざまな問題で、それを切り抜けていた経営者としてのザッカーバーグは、単なるよく言えば天才ハッカー、悪く言えばオタクなんかじゃないことが分かる。そして、映画の原作の原題にあるような「偶然の億万長者」ではないことが。
という意味で、非常に読みごたえもあり、面白い本だった。著者もかなりザッカーバーグに好意を持っており、彼よりの記述にもなってはいるが、プライバシー問題など、彼の判断に疑問を呈したりもしていて、決してザッカーバーグの宣伝本にはなってはいない。原作本よりもこちらをオススメしたいが、両方読むなら、そのスタンスの違いを比較して読むのも面白いだろう。
ただし、上記二作よりかなりカジュアルで極めてシリコンバレー寄り。それはそうだ、当時エクセレント・カンパニーを記したのはカリスマ経営コンサルタントによる30年前の大著だし、ビジョナリー・カンパニーも超有名大学院教授で12年前の、シリーズ各作に数年の研究を投じた賜物。に対してこの本の著者は、注目の論客とは言うものの有力誌に都度タイムリーでキレのある寄稿するライターが本業なのだから。そこをさっ引かざるを得ない『表層的』や『コピペ感』はあるが、小さな組織から生み出されたβ版のサービスがあっという間に世界へ広まる昨今においては、逆にそれが現代的で臨場的に感じられ好感が持てた。だって、今日現在のFacebook創業10年を丸一年かけて入念に研究し詳細に執筆していたら、発売時には鮮度が落ちすぎていて読む気も失せるのがこの時代。
本書の
タイトルがマーク・ザッカーバーグという”人”に焦点を当てているので、あたかも掘り下げた研究と徹底した取材を元に彼を解剖した『リーダー論』と早計してしまうが、その実中身は、むしろザッカーバーグ本人よりも、Facebookをはじめとした新旧名だたるシリコンバレー的テクノロジー企業にフォーカスし、それぞれの経営方針や経営手法を取り上げながら、組織やプロダクトがいかにしてユーザーの、それ以前に従業員の心をつかみ続ける社風や文化を築いていくかの『組織論』を著者の視点でまとめあげた一冊となっている。だから書かれている一字一句からは、手法や戦略というより哲学や思想を感じる。
さらに読み進めてみると、もちろんFacebookとザッカーバーグに関する話題が過半数を占めるものの、だけでなく他の経営者や他の企業も多数取り上げ、それぞれの独自性のなかから何らかの共通点を浮かび上がらせており本書のスタイルとなっている。そのひとつひとつは、米国ベイエリアの動向を常にチェックしている諸兄やアップルやジョブズのファンである方々なら、すでに知っているエピソードも少なくないだろう。
だがそんな既視感をもってしても、僕が本書に五つ星を付け二冊の名作ビジネス書ビジネス書と並び称したか。それは本書から、『挑戦し続けることへの活力』と『世の中をもっと良くする意思』をもらえたからだ。未来はどうなるかなんて、誰にも分からない。だとしたら、僕らは今のこのとき世界に大きな影響を与える商品やサービスの担い手から、彼らの『姿勢』を多分に学びとり『ビジョン』を少しでも垣間見る価値が余りにも大きい。
この本を手にするくらいだから、きっと読者に僕を含め、ザッカーバーグ氏と個人的に語り合う間柄の方はいないだろう。だけどこうした著作をヒントに、彼が提供するプロダクトや法人格に身近で接しながら、「こんなときザッカーバーグならどうするかな」と図々しくも想像してみることならできる。そんな贅沢な架空の対話を、この本を読む前より読み終えた今日の方が、ずっと色鮮やかにずっとワクワクしながらふけることができる。