夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
「彼女」を振り向かせたくてたまらない、所謂「草食系」男子大学生と
恋愛レベルにさえまだ達していないぽーっとした「彼女」との、
京都の四季を舞台にした恋愛?ファンタジーです。
ず〜っと上空をふわふわしていて、最後の最後にやっと
ちょっと不時着できたような、不思議で心温まるストーリー。
イマドキこんな純粋かついい意味で子供っぽい大学生はいないよ、
と思いつつ、手放さずに先へ先へページを急いでしまうのは、
どこかでこんな純粋さを懐かしく、羨ましく思うからかも知れません。
この不思議さ、現実感のなさはしかし好き嫌いが分かれそうだと思われます。
文体も独特です。それこそ、どこにでも、しばしば現れる「不思議ちゃん」と
呼ばれるカテゴリーに入る人を、自分はまあ受け入れられるタイプなのか、
ただイライラしてしまうか…によって分かれるのではないでしょうか(笑)
私個人的には好きで、
四季や京都の情景とともに若者の心が丁寧に表されているなと思いました。
「彼女」は少し変な子ですが、ときには、ちょっとトロくて遅れていても彼女のような、
物事を丁寧に、やさしく見つめる目をもちたいものだ、と思います。
舞台「夜は短し歩けよ乙女」 [DVD]
原作に準じた作りはいい。まさか4章全部演じるとは思わなかった。
原作を知っていれば没頭できるだろう。
しかし飽くまで「原作を知っていれば」だ。
そうでなければ荒唐無稽なファンタジー劇になってしまうかも知れないし、無理に舞台化した感も湧いてしまうだろう。
けれども、総じてよくできている。原作を知らずとも楽しめるほどに。
主人公「私」なぞ、明らかにモデルより年かさだが、童貞理想主義者らしくて好感が持てる。登場人物もなべて好ましい。
しかし、
だがしかし、
肝心の「黒髪の乙女」が微妙に黒髪でないのはどうか。
ライトの当たり具合ではやや茶色に映るし、もとより余りにカツラ過ぎる。
あまつさえ、他の役者に較べて明らかにカラ元気でセリフをカラカラと叫ぶばかり。
彼女に演技はまるでない。原作から膨らんだ他者に較べて台本通り。
原作のような天真爛漫な萌え少女ではなく、単なる不思議ちゃんになっている。
それだけが残念だ。
この物語は乙女が主体なので、それが主人公に夢想させるほど魅力的な存在あるいは演技でないと、興醒めしてしまう。なぜ彼は彼女にこれまで夢中になるのか、わからなくなってしまう。
万人の絶対的な存在などありやしないが、
せめて、黒髪の乙女は、少なくとも完全な黒髪であってほしかった。
それは主人公と読者の共有する唯一の要素であったのだから。
そうであればありがちないち劇団員のベタな演技でも許せた筈だ。
だからお話としては面白くとも、評価を下げて星3つだ。
原作を知らない人にはもっともっと面白く見られると思う。
しかし原作を知っていると、
どうかな。
四畳半神話大系 第1巻 [Blu-ray]
今の世の中、まがい物が多くて嫌になる。
知性の欠片もない言葉遊びを繰り返す作家もいれば、1話で見飽きる程度の演出で誤魔化そうとする監督もいる。
どちらも上っ面を滑っているだけで、中身なぞない。
上記のようなまがい物ではなく、これは本物。
言葉遊びも日常的な部分と知性的な部分の両方を持ち合わせ、何度見ても色々な箇所で笑わせてくれる。
演出も誤魔化しではなく、作品の世界を崩さず昇華してくれる素晴らしい出来になっている。
それはスタッフにも現れており、OPED、監督、演出、原画に至るまで有名な人を揃え、全く妥協の許さない配置。
昨今、アニメを芸術的側面で見ようとする動きがありますが、その動きに対する個人的見解は置いといて
この作品は、芸術に昇華されていると言っても認めてもらえるものだろう。
脚本も演出も美術も音楽も、この作品は徹底している。
好き嫌いはあるにせよ、ここまで完成されたアニメを見たのは久しぶりだ。
構想が理論的でありながら、表現が感性的なのも良い。
EVA以降特に、モノローグや心理描写の多い作品では、アニメーションしない事が「普通」になって来ている。
しかしこの作品、初期の押井作品のような、ご先祖様万々歳のような、モノローグが多くてもキッチリアニメーションさせている。
当時押井監督は「ご先祖様万々歳が面白くても真似してはいけない」と言った。
それから20年の月日が経ち、ようやく現れた才能によって完成されたのがこの作品である。
2話が終了した時点から、ラストの予測はついた。
しかし、このアニメの楽しみ方は、「ラストに至るまでの道程」を楽しむアニメである。
色々な立場から見れば、キャラの色々な面を見る事が出来、多くの魅力がある事にも気付く。
それは伏線回収も含まれ、ラストを見る事によって
また1話から見たくなる「楽しませてくれる」アニメだ。
太陽の塔 (新潮文庫)
久々に毎日本を読む時間を作ろうと、努力して仕事を早く終える日が続きました。(といっても3日ですけど。)読み終えてしまった時は寂しかったです。昔、京大にいたせいか、まわりがこんな人だらけだったことをしみじみ思い出し、同時に彼らの精神構造をやっと少し理解できたように思いました。エリートと一般には思われているようですが、実際の京大生(特に男子)は、この本にあるとおり恐ろしいほど不器用で、またなぜか異常なまでに女子を大切にしがちです。こういうごつごつした生き方をしている若者は現在もいるんだな・・とほっとしました。京都という町の妖しさもよく描かれていると思いました。それにしても疑問なのは、彼らの「女子」という集団に対する崇拝ぶりを見ていると、はたして個人に対しての愛情もちゃんとあるのか?という点です・・。水尾さんの孤独はそこにあったのではないでしょうか。ともあれ、爆笑し、ラストは泣けた作品です。次作、次々作が楽しみです!!
宵山万華鏡 (集英社文庫)
森見の最新作は、祇園祭の宵山を舞台にした連作小説。
相変わらず、京都の学生のハチャメチャぶりは健在だけど、今回はちょっと違う。
どことなく切なさが漂う。祭りの後のような、不思議な読後感の小説だ。
『美女と竹林』、『恋文の技術』、そしてこれ。どんどん、作風が変化しているような気がする。