小説家 (講談社文庫)
小説家とはかくも業の深いものか。どっと疲れが襲った。
著者自身を投影した「彼」を取り巻く人々は「彼」の犠牲である。
犠牲を強いて、それを自らの枷とする。
枷なくしては、物を書くことへの執念を抱え続けられないかのようだ。
今さら女性や娘たちへの懺悔をしても意味はない。
彼女たちもそれを望んでいないだろう。
「彼」はそうとしか生きられなかったのだから。
「文芸首都」時代の中上健次とのエピソードなど、興味深い事実もある。
老醜の記 (文春文庫)
「小説家」と対をなす著者の私小説。
40歳近く年下の女性との恋愛の日々が綴られている。
最初はキワモノ系かとの先入観を持っていたが、
まったくの誤りだった。見事な純文学!
主人公の感情表現が実に細やかで、
心の微妙な揺れが鮮明に伝わってくる。
作品テーマは谷崎潤一郎の「痴人の愛」に近く、
質も決して遜色ない。