ポストリュード 時を超えたピアノ・ストーリー
シルベストロフファンの方には大変貴重なアルバムです。もちろんフェルツマンのバッハやショパンを知る方にもおすすめです。近年アファナシェフが日本でもリサイタルに取り上げたりと少し一般にも知られてはきましたが音源はまだまだ少なくリュビモフのエレジーフォーピアノアルバムと並ぶ優れた1枚です。現代音楽といっても非常に親しみやすい、懐かしさ等も感じるメロディは組み合わせたシューベルトやショパンと違和感無く収まっており全体を一曲ととらえたようなアルバムになって楽しむことができます。シルベストロフ入門にも最適な1枚です。
バッハ:イギリス組曲
パルティータ&インヴェンション集(99年録音)に続くウラディーミル・フェルツマンのバッハ第2弾である。今回の「イギリス組曲集」の録音は2005年。本当にフェルツマンのバッハは瑞々しい。
イギリス組曲という曲集はバッハのクラヴィーア曲集の中でも内省的な深みの伴う曲だ。だから、全曲を通して録音というのは、なかなか難しいことのようだ。最近ではペライアのものが印象に深い(特に第1番、第3番、第6番が秀逸!)が、このフェルツマン盤は、私にはそれ以来の感銘を受けたイギリス組曲集となった。
フェルツマンの場合、何と言うか、とても自由さを感じる演奏である。気持ちの高ぶりと内面から湧き出す芸術家特有の感性に沿って、感情の赴くままに、楽曲を奏でていく。時にリズムは跳ね、声部は色鮮やかに行き交う。途端に暗い影をにじませたり、ぱっと陽が差し込んだりする。音は特有の粒立ちを持っていて、やや保持時間は短めで、ゆえに瞬間毎の自在性は増し、それを用いてまた発展を得る。そうして描かれる世界は、きわめて「舞曲」としての体裁を適度な起伏を持って整えられ、聴くものの気分に様々な陰影を与えてくれる。
第5番のサラバンドのゆったりした足取りで描かれる高貴さ、そしてジーグにおいてみせる奔放な疾走がこのアルバムの象徴的な場所と感じられた。
イギリス組曲にまた一つ名盤が加わった。
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
カメラータが最近国内盤をリリースすることで、注目が増しているピアニスト、フェルツマンの10年前の録音がお目見えした。
正規のセッション録音で音質は良好。ブラームスというのはちょっと意外な感じもしたが、興味深く聴いてみた。
まず、やはり従来のブラームスとは違い、ピアノの自由度がいくぶん大きい。
重音のニュアンスはよく吟味されていて、歌の振幅も大きいが、その自由さを獲得する過程で、ややオーケストラは大人しくならざるを得ない。
しかし、従来と違うからといって悪い演奏というわけではない。
ここでは「ブラームスらしく」といった志向にとらわれない瑞々しいピアノの歌が他にはない魅力なのである。
ちょっと即興的な節回しや、軽やかな気転など、この重い作品を自分の領域に取り込み、そこで闊達なピアノの冴えを見せてくれる。
これはこれで爽快な演奏である。
フォンクの指揮はオーソドックスであるが時として木管に自由度を与えて、フェルツマンの世界をともに楽しもうという好ましい配慮と思える。
これもまたよしの1枚といえる。