ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1~4番
何度も録音していることからもわかるけれども、アシュケナージがこの曲に特別な思い入れを持っていることは確実です。しかし、どうやら指がついていかない箇所が多く(手が小さいため指が届かず中途半端な打鍵になる)、そのたびにぎくしゃくしてしまいます。私も昔は大好きな録音でしたが、いろいろなピアニストの演奏を聴くと、技術面では大きく見劣りすることがわかってしまいます。ただ、テンポの取り方やフレーズの呼吸の仕方などはとてもスムーズです。楽譜を見るとわかりますが、ラフマニノフの協奏曲はテンポが激しく変化したり、変拍子のようになる部分があり、センスの悪い人が弾くと歌いまわしが不自然になるのですが、アシュケナージはそういうことがありません。とても自然な語り口でラフマニノフとロシアへの熱い想いを紡いでいく演奏は、やや拙い技術をものともしないほど感動的です。
ラフマニノフ:自作自演~ピアノ協奏曲第2番&第3番
第二が1929年、第三が1940年の録音であり、SP盤からのCD化であることを思えば、ノイズが多く、多少こもった感がするのは致し方ないでしょう。
それを前提とした上で言えば、ストコフスキーの指揮による第二は音が鮮明で、とても80年前の録音とは思えません。第三はラフマニノフが亡くなるわずか三年前の演奏ですが、いささかもテクニックは衰えていないように思われます。
第三のオーマンディはまだしも、原曲を好きなように「編曲」して指揮することで知られるストコフスキーと、希代のヴィルトオーソである作曲者ラフマニノフとの間にどのようなやりとりがあったのでしょうか。
ラフマニノフ「そんなに仰々しく弦を鳴らさないでくれよ、レオポルド君」
ストコフスキー「あなたのピアノのように素っ気なく弾いたら、絶対、観客には受けませんよ」
案外、ラフマニノフは八歳年下のストコフスキーを可愛いと思い、好きなように指揮させたのかもしれません。そんな想像をかきたてられる名盤です。最初はあまりに素っ気ないピアノ演奏に聞こえるかもしれませんが、何度か聞いているうちに「クールな情熱」といったものに気づかされること請け合いです。
最初の一枚にはお勧めできませんが、ラフマニノフが好きな人は、アシュケナージやリヒテルの盤などとともに手許に置いておくべきでしょう。
Rachmaninoff: Piano Concerto No. 2: In C Minor, Op. 18 (Dover Miniature Scores)
ラフマニノフの中でも最も有名でかつ、難易度の高い曲である。
巧みなピアノの技法を用い、様々に移り変わるテンポやメロディが作品の高い完成度を示している。
ラフマニノフ ある愛の調べ [DVD]
交響曲第1番の失敗からうつ病(映画では神経衰弱とありますが、描写からも史実からもこう言っていいと思います)に陥るラフマニノフ。その克服、亡命先での再発、それを支えたものは?…こういう視点で見ると、気分障害当事者である私としては、その様子を非常によく描けていると思いました。療法はともかく(ただ、催眠療法を行ってはいるが、認知療法のスキーマアプローチに似ている面がある)、様子、症状はそのまま受容するに足ります。周囲の対応もロシア時代は適切だったと思います。アメリカ時代では、おそらくは気分変調症(軽度の鬱の遷延化した状態)の故に家族がぎくしゃくする様子が、これもあり得る話としてうまく描けていると思います。とても感情移入して鑑賞できました。
映画ではなかった吹き替えも、皆さん上手に演じておられます。
ただ、やはり構成がわかりにくいです。時代が飛びすぎます。これはいつの段階の出来事なのか、実際にはどういう時系列なのか、一度では理解できません。劇場鑑賞当時はそこに消化不良を起こした記憶があります。鑑賞前に史実の年表は目を通しておくといいかもしれません。
またメニューについては重大な苦言があります。13インチテレビでは、フォントサイズとデザインの問題で、メニューに何が書いてあるのか、文字通り全く判読不能です(字幕・吹き替えの切替などは手探りでした)。解説画面もフォントサイズが小さく、非常に読みづらいです。大画面のことしか考えていないのではないか、と思いました。
減点:構成(時系列)のわかりにくさ、メニュー画面の絶望的判読不能性
ユリイカ2008年5月号 特集=ラフマニノフ
ラフマニノフのCDだけでなく、彼が生きた時代背景や音楽性、幼少時代、各曲の解説など、いろいろな分野の、いろいろな解説が書かれていて、勉強になる。ラフマニノフ好きが、益々、惚れこんでいく。ラフマニノフに関する本は、あまりないので、私の宝物になっている。