六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)
火災警報のサイレンをきっかけに、日常から、母から、兄から、そして自分自身から逃げ出した主婦の主人公と、自分の身体のコンプレックスがゆえ深い孤独を背負うロシア人青年の一瞬の魂のふれあいと別れ。愛のかけひきがものすごく意地悪なのに、そんな愛が妙に魅惑的にみえた。
冥土めぐり
最近の芥川賞受賞作に比べて珍しく読後感は良かったですね。
母親の弟が微妙に私の家族に似ていたのでニヤニヤしながら読んでいました(笑)。
世間体やら自分らしさを履き違えた芸術家きどりとドストエフスキーの白痴に登場するムイシュキン公爵を思い起こさせる夫のコントラストは見事だったと思います。って書いてて思いましたが白痴とちょっと似てますね(笑)。
幸せの在り方とか、今自分の心が現時点にちゃんとあるのか(ちなみに作中の母親の心は明らかに過去に縛られていますよね)自分の中でも考えさせられる作品であったと思います。
個人的には夫の脳性麻痺は潜在的な意識が働いた、つまりは本人でも気付かない意図から必然的に起こった出来事なのではないかと勘ぐっています。
二匹 (河出文庫)
野性的な小説だ、と思いました。それも学校という閉鎖的な場所を舞台にしているにも関わらず大きなジャングルを舞台にしているのではないかとふと錯覚してしまうほど、野性的でした。とんがっていて、近づくものを打ち落とすという強い意志も感じます。
三島賞を受賞した鹿島田真希の文藝賞を受賞したデビュー作は、一言前衛という言葉が似合うのではないかと思います。ポップ調の文体に、裏返ったりさかさまになったりと落ち着かない構成。それら含めて、とても楽しく読めたと思います。
ただ、文章にはいちいち引っ掛かりを覚えるところがあったり、物語としての完成度はほとんどなかったりと大きな欠点も多いです。また、物語の意味がイマイチつかめないのは良いとしても、例えば笙野頼子のように作者がわかっているという安心感が、この『二匹』という小説にはないと思います。アンバランスな物語を支えるバランス感覚が欲しいものです。