アダルト・エデュケーション
著者の性愛表現は、細部までなめらかで、微妙な感覚を
的確に表し、エロにただどん欲で単純な男性側からでは、
全くわからないような領域に達している。
このレビューのタイトルにした表現の他には、
「私のからだに仕掛けてくるすべて」
「グミのような色をした胸の飾り」
「濡れそぼった吸盤のようなそこ」
「彼女とこういう関係になってからというもの、
わたしは爪を短く切るようになった」
「両脚を凶暴な鋏みたいに広げて」
「膝と膝をこすり合わせないようにするだけで精一杯」
「酸味と塩気のまじったようなこの味」
「じかにみるよりどきどきする。」
「忘我の極み。恍惚の行き止まり。」
などの表現には感心し、唸った。
重ねて、女性の悲しい心情を吐露する表現も秀逸。
「ずきずきする。あそこより、頭より、気持ちが。」
「喜んでくれるのなら、いくらだって我慢してみせる。」
「この世で、あたしだけがあげることのできる贈り物」
「・・・抱いてくれると、私はたちまち安定する。」
「求められることの幸福」
「どうせ哀しくなるだけとわかっていても、だから私たちは
また交わろうとするのだ。」
「誰かと幸せでいたいなら、相手の秘密など知ろうとしては
いけないのだ。」
安っぽい官能小説だと、読者を興奮させる隠(淫)語の羅列
に終わるところを、女性の心とからだにまで訴えてくる表現にしたところは、
「ダブルファンタジー」を凌ぐ出来栄えである。
短編ということで、いろいろな女性を描くことができている
ことも正解だった。
ただ、もう少し、浅はか過ぎる男性像のところを、違う
男性もいるんだというパターンも欲しかったかな。
せっかくの短編だから。
上の数々の科白を見て、動脈の動きを心身で感じた方、
とりあえず読んでみてください。。。
W/F ダブル・ファンタジー
村山由佳さんの作品は初めてでした。週刊文春連載中も読んでいませんでしたがつい最近ふとしたことから作品の存在を知り、主人公が自分と同世代ということで興味を惹かれて手にとりました。
感想...非常に自伝的要素の強い作品だと感じました。ここまで自伝的でいながら最後までぐいぐいと読ませる筆力はさすが。ラストの花火のシーンの美しさと哀しさの余韻もよかった。初めての作家の作品を読むときはかなり懐疑的になるのですが、この作品は引き込まれました。ただ、主人公の「奈津」は決して特殊ではないと思います。同じようなことをしているか、同じことをしたいか、共感できるかどうかに関わらず、彼女の心身が求めるものは同じ世代の女性であれば容易に理解できるものではないでしょうか。また、性的な描写に注目が集まっているようですが、そこまで特殊な世界や体験を描いているわけでもなくごく普通の一般的な30~40代の女性の性に対する姿だと思いました。
唯一気になったのは、作者は自分が特別だと思っているわけではないかもしれないけれど、なんとなくそう思っているような感が作品全体から漂っている...つまりナルシズムと自分大好きオーラが感じられること、でしょうか。あんなに優等生だった自分がこんなことしてるよっていうのに酔ってるように見えるというか。母親から受けていた縛りからの開放、というテーマもそこまで特殊で特別なものではないですよね。それと前半の舞台演出家のおじさんとのメールのやりとりにも食傷。
この辺がなければもっと極上の作品だったのに、と僭越ながら思いますが、個人的にはそれを差し引いても、心理描写の緻密さとリアルさ、性的な描写の率直さと美しさ等、女性からの視点として納得いくものであり、また、作品全体を通して根底に流れる人間の「孤独」に心を揺さぶられました。
そして、自由を選択することができた作者、主人公に(確固たる社会的基盤を持っていて小さな子供がいないからこそとれたアクションだったと言えるかも)羨望をおぼえました。
最後に、
>女性の性愛、性感というものは、こんなに豊かで底知れないものなのか。怖ろしいような、うらやましいような気がした。
と書いている男性のレビュアーがいらっしゃいましたが、「その通りです」と言いたいです(笑)その最中のシビアな批判眼についても。
放蕩記
どうしてAmazonでだけこんなに評価が低いのか、理解に苦しみます。
ひりひりと突き刺さるような思いで、一言も読み飛ばせずにこの本を読んで、最後には夫に心配されるくらい号泣してしまった自分の読み方のほうがおかしかったのか? と不安になり、ネットを検索してみましたが、読書メーターなどではすごく高評価で、安心しました。もちろん万人受けする小説だとは思いませんが、作者もそんなことは覚悟の上で書いていると思います。
私も、母を愛せなくて、そのことを誰にも言えませんでした。言えば、それこそここに書かれているような意見によって、自分を否定されたり攻撃されたりすることがわかりきっていたからです。
いい年をして、大人になりきれていない。
母親から傷つけられたことくらい誰だってあるんだから、いいかげんに自分で折り合いをつけるべき。
どれだけ自分が大事なんだ、と。
経験のない人からそういうふうに言われる (だろうと予想が付く) ことこそが、世の中の、母親との関係に苦しむ娘たちを、なおさら痛めつけてきたように思います。
主人公は、作中で何度も冷静に自分を省みては、この年齢になってもこんなことにこだわってしまう自分のほうがおかしいとわかっている、でもどうしようもない……と堂々巡りします。
でも、その姿がリアルであるからこそ、現実にどこまでも弱かったために母親を許せずにきた私のような読者は救われるのだと思います。
いろんな意見があるとは思いますが、レビューを見て読もうかどうしようか迷っている人は、ここの星の数だけで単純に判断しないほうがいいかもしれません。
少なくとも私は、心の底から救われて、少し楽になれました。
この本を書いてくれた作者の勇気に、感謝します。