ここでは、ヴァイオリン・ソナタ第1番の他は後期作品なので、多少とっつきにくいかもしれない。
ヴァイオリン・ソナタ第1番をこの演奏で初めて聴いた時は、今より私が若かったからかもしれないが、幸福感でいっぱいになって、眠れなくなってしまった。朝まで延々聴き続けたからだ。ほかの演奏をいくつか聴いたが、原体験が強烈過ぎて、体が受け付けなくなってしまった。ガロワ・モンブランも、今日的メカニックの水準ではないが、この曲を作曲していた時のフォーレがいかに幸せだったか、伝記を読まなくてもわかるほど、すばらしい。建前論ではなく、演奏はやはり心なのだ。
あとの3曲も、いったん慣れれば、同じくらい癒される名曲である。とっつきにくいが、親しくなってしまうと離れられないのだ。
なお、全集といいながら
チェロ・ソナタが欠けているのが惜しい。エラートがBMG傘下のときリリースされた同内容の全集では、トゥルトゥリエの
チェロによる、これまた名演があっただけにもったいない。
チェロ作品だけ、今の人たちのためにリリースしてくれないだろうか。
その曲を聴いた最初の演奏の印象というのは、何か特別な形で残ると思う。その演奏が良きにつけ悪しきにつけ基準点みたいになるのではないだろうか。私の場合、この演奏が最初に聴いたフォーレの五重奏曲だった。当時買ったものは五重奏曲が1枚には入っていなくて閉口したものだったが、演奏はエラートのこの演奏だ。作曲者フォーレのその時の実年齢に関係なく、きらめくような輝かしい若さと、晩年の沈思とが、一度に聴ける作品だ。両方とも素晴らしいのだが、私は二番の方の冒頭を聴くたびに、何か涙ぐまずにはいられないような気になる。素晴らしい作品と演奏である。
フォーレは超
メジャーというわけではなく、ピアノ曲集の録音はそう多く出回っていません。
いったいどれがいいのか、と手探りで色々買ってみましたが、これがベストでした。
特徴は非常に落ち着いた演奏で、奇をてらっていないこと。
この演奏が、フォーレの夜想曲には非常にピッタリします。落ち着いた演奏とはいえ、薄っぺらいわけではありません。時折落ち着きの中に非常に深い表現を感じさせてくれます。