ライナーノーツを捲ってみれば、ご丁寧にも日本語表記が。マタチッチとなればウノコーホー先生である。他言語の解説原文もコーホーセンセイ文の翻訳であった! ウノセンセーは世界一のマタチッチ解説者なのか? マタチッチ以外にもクナッパーツブッシュとかシューリヒトといった人は、ウノセンセー無かりせば、聴くことも適わぬと言えそうなほどに、我々リスナーはウノ解説の影響下にあることは間違いない。そう、それはもちろん良かれ悪しかれである。小林秀雄の“モオツァルト”ほどの悪影響ではないにしても。
というようなことは実はどうでも
よいことであった。音楽そのものを聴けばよい。
物凄いスケールの大きい『Ma Vlast』である。懐ろが深い。途轍もなく。
ところどころ、これまで聴いてきた西側のスター指揮者の
パリッとした軽薄な演奏に耳を汚されたからか、あるいは亡命東独指揮者たちの神経質なアンサンブルに体が過剰適応しているからか、マタチッチの巨大重厚な表現に鈍重なものを感じてしまう。こういう反応は多分、音楽がわからなくなってきている証左でもあろうか。
有名な「モルダウ」のみならず、「高い城」「ターボル」といった熾烈な民族の歴史がうねりのように押し寄せてくる楽音では、マタチッチでこそ作品の本質がわかるとさえ思われた。
終曲「ブラニーク」の純音楽的な感興!!! そこでは細部のニュアンスも豊かであり、ヤン・フスの思い出が巨大な流れのなかに憩っているようだ。
まあ、トータルでいうと別格的な演奏なのではないか。
ウノセンセーの耳はまだまだちゃんと聞こえているようだ。失礼。
それにしても、このディスクのマタチッチの顔写真。いい顔しているねえ!!
さて、ゲーム理論を構築したノイマン、モルゲンシュテルンの原著の翻訳がありましたが、長らく品切れで再版されませんでした。今回、3分冊で文庫化で名著が戻ってきました。既に評価の定まった本だけに多くを語る必要はないと思います。ゲーム理論はここから出発した原典が文庫という形で一般の人向けにも手に取ることが出来るようになり、益々ゲーム理論ならびにノイマンの仕事について考えて見ましょう。筑摩書房の嬉しい企画です。
ガウスは数学の王様と呼ばれますが、本書を読んで、ノイマンは科学の王様という印象を持ちました。経済学、物理学、数学、コンピューターなどにおいて革新的な仕事をしましたが、その業績について詳しく書かれているので、その影響の大きさに改めて驚かされました。特に経済学や計算機において僅かの時間で本質をとらえ科学にしていく能力は圧巻です。英才教育など恵まれた環境もその頭脳に影響を与えたようですが、幼児期に見られる数学的才能や1日4時間の睡眠以外はほとんど思考しているなど、生まれながらの天才という印象が強いです。一流の物理学者が計算機を使うよりノイマンの暗算の方が速かったり、昔に読んだ小説の長い文章を一言一句間違えずに暗唱できる記憶力など、ノイマンの卓越した能力を示すエピソードで埋め尽くされています。飛び抜けて優秀な人間の頭脳に関してノイマンの才能は大変興味深いです。
また、運動神経だけは悪かったことや、興味が無いことは全く覚えず自分の家の食器の場所さえ分からなかったり、意外にも下品なジョークが好きだったりと、ノイマンという人物の人間的な側面にも触れており面白いです。