この作品は内田先生のいつもの作品とはちょっと違います。ミステリーではあるけれど、事件の謎解きよりも、将棋の世界に重きを置いている感じ。私は全く将棋はわかりませんが、将棋を知っている人なら、この人物はあの人をモデルにしてるんだな、っていう読み方もできるし、棋譜を頭に思い浮かべることもできるのでしょう。
でも、将棋を知らなくても楽しめる作品であることは間違いありません。浅見光彦も信濃のコロンボも出てきませんが、こういう異色作を楽しんでみるのもいいかもしれませんね。
シドニー・ルメット監督 × 主演
アル・パチーノ という『セルピコ(1973)』の
黄金タッグを再び集結させ、各方面から絶賛された1975年公開の社会派サスペンス映画。
実在の銀行強盗事件を忠実に再現している。
原題『DOG DAY AFTERNOON』は、夏の暑い盛りの午後を意味するもので、
邦題『狼たちの〜』は、何の関連性もない。
第48回
アカデミー賞にて、6部門にノミネートされ、フランク・ピアソンが脚本賞を受賞。
うだるような行内を所狭しと駆け回り、憎めない人柄と周囲を惹き付ける物言いで行員、
メディア、群衆、警官、家族、恋人までも巻き込み、一転、二転する局面を打開していく
アル・パチーノ扮する強盗犯 ソニー。
詰めの甘さから、プラン変更を余儀なくされ、汗だくになりながら右往左往する姿が
実に人間臭く、愉快だ。
一触即発の神経質で無口な、お荷物キャラを演じている相棒 サル役のジョン・カザールも、
不気味な存在感を放っている。
犯人の言動や境遇を、ヒーローの如く祭り上げる誇大報道に感化され、目紛しく推移する世論と
警察の対応。
今なお、米国社会に巣食う「差別」や「偏見」問題に対する本作なりのアプローチも垣間見え、
緊迫感の中にも独特のユーモアが漂う。
更に本来、恐怖の対象でしかない武装強盗犯の以外な一面を目の当たりにし、安堵の念が
親近感を越え、仲間意識に発展するという極限状況下での被害者心理が違和感無く演出され、
なかなか興味深い。
前述のようなリアル思考をベースに、主要な役者からエキストラに至まで、緻密なリハーサルを
繰り返し、最終的には個々の感性を重視したアドリブ主体の台本に書き換えたというルメット監督。
全編を通し、スピーディーで目移りさせないテンポの強弱を熟知している巧みな構成力と、
リ
アリティーを追求しつつも、独自のエッセンスを加味し、単調なドキュメンタリー風作品に
終始させない演出力に敬服する外ない。
ニューヨークのブルックリンで発生した実在の事件がモチーフの本作、一人舞台さながらの
迫真の演技を披露し、スポットライトを独り占めする若き日のパチーノだが、主役抜擢の決め手が
監督推薦ではなく、実際の犯人に似ていたからだと知って驚いた。
不謹慎ながらファンとしては、仮に1972年当時、
アル・パチーノに似た銀行強盗犯、或いは、
事件そのものが存在していなかったと考えると……いや、縁起でもない話はやめておこう。
何はともあれ、このような巡り合わせを確り俳優としての名声に結びつける辺りは、さすが一流、
真のムービースターだ。
未知数の高級素材が、最高峰のシェフや
スタッフの手によって、至高の一皿に昇華されている。
「これぞ、シチュエーション サスペンスの王道、素晴らしい!」
画質に関して………多少、経年劣化による微粒子が飛び交うものの、グレイン少なめで
ディテールのブレや滲みは、ほぼ無し。
全体的に白みがかった発色ながら、作品の雰囲気にマッチしていて
全く問題無し。
1970年代のフィルムにしては、見易く安定感があり、好印象。
エルトン・ジョンの「アモリーナ」がバックに流れ、NYの庶民の生活が映し出されるオープニング。これから始まる物語の登場人物たちの属する層の生活を紹介するかのようなオープニングだ(ブルーカラーと中流層を交互に映し出しているようにも見える)
銀行強盗に失敗し立てこもるソニー(
アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)。彼等2人は決して非情な銀行強盗ではなく、手際も全くなってなく、逆に人質の銀行員にたしなめられるほど。この銀行員と強盗2人のやり取りや、ソニーとサルの会話はまるでボケと突っ込みのようで思わず“クスッ”と笑ってしまう。しかし、この映画は決してコメディではなく痛烈に当時のアメリカの社会問題を突きつける。警察による暴力や人種問題、同性愛問題などが、物語が進行するにつれて明らかにされていく。
銀行強盗であるソニーのアジテートや人質の行動により強盗や人質が民衆の代弁者、警察側が悪意の象徴という構図が出来上がる。そして、観ている者はある時は人質と同化して社会の問題点に憤りを感じ、ある時は警察と同じ行動をとっていることにふと気が付く。例えば、ソニーの同性愛の相手が「体は男だけど、心は女」と言ったときに、思わず後ろの方で“クスリ”と笑う警官と同じ自分に気が付く。
特に、物語が始まった当初は冷徹に見えたサルが、実は繊細で臆病なだけだと気づかされ(彼はガンになるのが怖くてタバコを吸わない)、そのサルを外見で危険人物と決め付ける警察の悪意には恐ろしくなってしまう(サルは最後まで発砲しない)。
ラスト近くで、解放した人質からサルが別れのプレゼントのネックレスを受け取るシーンは何とも切ない。
警察の行動全てが悪意に満ちているように見え、社会の問題点を彼等に映す形で描いたシドニー・ルメットの傑作だと思う。
『狼たちの午後』という邦題がついていますが、「ゴッド・ファーザー」のあの
アル・パチーノとジョン・カザールを期待してはいけません。というのも、この作品は、マフィアの世界とはまったく別のアメリカ社会の陰影にメスを入れています。
アル・パチーノは確かにかっこよくもあるけれども、よく見るとかなりマヌケでもある。人間味の満ちた演技は当時からすばらしかった。ジョン・ガザールや他のキャストの好演も十分楽しめます。
音楽はオープニング以外、一切使われておらず、場面中の雰囲気がじわじわと伝わってきます。今の
ハリウッドでは、こんなことはやらないと思います。70年代ならではの映画ですね。