雑誌連載も読んでいたが、森氏の「腕(かいな)」に対する意気込みと気合いを感じていました。そして、コミックスの装丁を見て、また意気込みと気合いに脱帽です。『駿河城御前試合』という、けっして目新しさがない作品を森氏の画力で圧倒させ、原作に忠実のようで森イズムを配する。その強力なコンテンツにこの意外性のコミックスの装丁。読んで面白く見て楽しい作品でした。
偶然、読んだ掲載紙に「
シグルイ」読者であれば
「ガマ剣法だ!」と一目で分かる見事な屈木頑之助を発見。
しかも、槍術師範の笹原修三朗(〜こちらも
シグルイではなかなか
出番が多かった)と御前試合にて対戦する展開に驚かされる。
さらに、両者の対戦前には第一試合の藤木・伊良子戦の敗者の亡骸が
運び出されていくシーンが!
原作だとこの後どうなるの?と思いつつも、未だに小説を買って
いなかった私にとって、ベテラン作家の手による実に劇画らしい
劇画の御前試合の続きに出会えた事は、非常に幸運だったと言えます。
内容の大部分を占めるのは、剣士が真剣試合に至るまでの経緯
であり、面妖で血腥い事件の果て、ひと味もふた味も違った剣術を
用いる両雄が相対するクライマックスへと向かう・・・という構成
により、ストーリー性も抜群。 二百頁超の厚さも良かったです。
宮本武蔵の少年期(といっても昔は15で元服ですが)、まだ弁之助と
名乗っていた時の、13〜15歳の頃から関ヶ原までを描いた作品です。
この獣-シシ-を描く前に森先生が取り組まれていた
腕~駿河城御前試合~ 1 (SPコミックス)の
影響が残っているのか、けっこう残酷なシーンや性描写が目立ちますが、
それがかえって弁之助の荒々しい気性や、この作品の世界観とうまくマッチして
いて良かったと思います。
弁之助の独特の心理描写や、姉であるおぎんと弁之助との禁断の関係など、
武蔵を扱う他の作品に無い大胆な展開もありますし、武蔵ファンの間で
賛否がはっきり別れそうな展開ですが、それでも人間臭さを包み隠さず、思いっきり
描いていらっしゃるという意味では見応えはあると思います。
カムイ伝 (1) (小学館文庫)のような世界観がお好きな方ならハマるでしょう。
ただ残念なのは、関ヶ原で物語が終わってしまうことです。
森先生は連載でこれからも獣-シシ-を描き続けるつもりだったそうですが、ある日
先生は編集さんに呼び出され、読者からの不人気を理由に急遽、連載終了を
告げられたそうです。
その時の無念な気持ちがありありと、後書きに書かれているのを見て悲しくなりましたが、
幸い森先生は今、『戦国自衛隊』の作画に取り組まれているそうですので、そこが
せめてもの救いでした。