ますます面白い。
滅亡した甲斐武田。その隠し金と勝頼の遺児若千代を狙う新たな敵は伊賀忍者。
真田忍者、風魔をはるかに凌駕する強さとされる
服部半蔵親子と「四天王」である。
この巻では、忍びとの戦いだけでなく、
そうして戦う「山の者」多十が、何ゆえ「ひとり渡り」になったか、という過去が明らかになり、
かつそのいきさつが現在に絡んで、物語りは新たな展開を見せる。
さらには前回で縁が切れたと思われた真田の忍び「猿」と、意外な形でまだ関わりがあり、
その関わり方もいい。
こうしていくつかの要素が錯綜しながら前へ前へと進む物語の展開がひたすら気持ちがいい。
全体に、話がうますぎるというのは正直ある。
が、何よりも気軽に楽しく読める面白さが追求されているから苦になることもない。
また前巻から既に、超自然ともいえる幻想的要素はあったのだが、
ここでは短い挿話とはいえやりすぎではないかと思える箇所がある。
しかしこれも、自然に溶け込んで暮らす山の者、
しかも多十のように優れた者ならでは、と思えば、またまた許されるしまうのである。
とにかく感覚が合って浸れる読者には楽しい小説だろうと思う。
ストーリーだけでなく、構築された世界が楽しいのだ。
こうなるとシリーズものは堪えられない。
前回「仲間」という言葉で語られた長谷川卓のテーマは、ここでは「絆」と呼ばれている。
次の巻が楽しみで仕方がない。