芥川賞受賞作ということで、これで初めて西村賢太に触れる人も多いだろうが、ケンタの真骨頂はむしろ
どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)とか
小銭をかぞえるのほうの、同棲している女との関係もののほうにある。併収されている「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」のほうが、川端賞落選の周辺を描いて、より嘉村磯多的な私小説世界が展開していると言える。もし「苦役
列車」に歉い、という人がいたら、先の二著にも手を出されたいと思う。
冒頭からやたらに難解な漢字が多く癖のある文体で、読み進むのに苦労したが、ルビがふってあったり、現代語に近く校訂してあった為に、何とか読了出来た(当時は、このような難解な漢字を使っていたのか・・と妙に感心した)・・また、当時削除された部分も興味深く読んだ。
読んでいると、何処かで読んだ気がしていたが、西村氏の文章であった。正に没後弟子を自認するだけあり、かなり藤澤清造の「文体」や「語彙」より影響を受けていたことが、ありありと解かった。
したが、この代表作だが、はっきりいえばそれ程に面白い作品では無かった・・却って西村氏の文章の方が面白いと感じたのが、正直な感想である。
特に後半に頻発する自殺した岡田の兄の癖のある方言は、読んでいて辟易させられたし、執拗なまでの粘着性とでもいうか・・原因追求には、真理の追究というよりも、謂わば主人公自身の理解(自覚)であったりし、物語性でいえば、誠に狭い世界を表現した作品であったと思う。これも「私小説」の宿命であろうか・・けだし、読み応えは充分有った。長篇ですが、西村作品に興味がある読者は、一読をオススメします。