最近になって数多くの優れた映画を生み出し続けるイラン。これはハタミが70%の支持を得て当選して以来の、イラン社会に訪れた自由で開放的な雰囲気を象徴するものと言えます。棄権を避けてハタミに投票した無数の若者や女性や知識人の存在は、イラン政治に大きな影響を与えました。改革がやや停滞している現在でも、ハタミは高支持率を得ています。こうした昨今のイランの変化は、国際テロリズムの支援や、自国民への蹂躙を恥じることさえなかった愚劣な宗教指導者たちにとって、予想もしなかった衝撃であることは間違いありません。
それにしてもこの映画は素晴らしい。数々の国際映画祭で賞を獲得し、
ニューヨークタイムズ紙で絶賛されたのも頷けます。このような名作が今後も生まれることを、私個人は大いに期待します。
とはいえ、本作品のように、子供が主役を演じる作品は、イラン国内では上映が禁止されています。イラン政府曰く、「貧困や社会問題を強調しすぎる」からだそうですが、それでも子供の自然な演技力で、社会問題を扱おうとする映画監督が増えており、こうした映画が生まれるのを、権力で抑えることは無理でしょう。
ちなみにこの映画を見ても、政府から何をそれほど問題視されるのか、私にはさっぱり分かりませんでした。このような映画が問題無しに国内で上映されてこそ、イランが真に民主的な国家と成り得るのですが、改革が停滞した現段階ではまだ厳しいかもしれません。
くどくどと政治的な意見を書きましたが、この映画は政治には全く無縁です。貧しい家庭で健気に生きている幼い兄妹の姿は、見ていてとにかく可愛らしい。暖かい家族愛に包まれたこの映画は、どんな人が観ても感動できると思いますので、是非一度ご覧ください。
「運動靴」を通して見える兄妹愛が心地良い。特にマラソン大会のシーンは胸を打ちます。兄妹個々が様々に葛藤しながら、それでもなお優しい気持ちを忘れず、健気に生きる姿が切なく美しく描写されています。不器用な生き様の父親も本作の重要な要素になっています。この家族を通して訴えてくるテーマはひたむきに生きることの大切さ、思いやる姿の美しさだと思います。人間の良心を再確認したいとき、本作のラストシーンを見たくなります。運動靴1つでこんなに物語を膨らめることができる視点が本作の最大の魅力だと思います。
本作の製作国はイランです。現在、先進国はイランのネガティブキャンペーンに勤しんでいますが、こんな人情味に溢れた作品を撮れる国民性のある国が悪い国とは思えません。お金はいくらあっても邪魔にはなりませんが、お金があれば幸せとは限りません。貧しくとも良心に従って正直に生きる姿の美しさは世界共通なのだと改めて感じます。イランが戦禍に巻き込まれないことを祈ります。
現在、絶版中で、中古品は高額で取引されています。BDが発売されることを嬉しく思います。ワーナーさん、ありがとうございます。
そういえば、最近、走ってないですね。こんなにも必死に走る二人と一緒になってみている方はどんどんこの映画のペースに飲み込まれていきます。
アリ君もステキですが、妹がさらにステキです。この二人、目だけで演技するなんて、只者ではありません。貧しいなかで家族が力を合わせながら一生懸命生きている姿に忘れかけた大切なものを見た気がします。
そして、エンディング。パパが帰ってくるシーンまで見たかった気もしますが、そこは想像に任せるというのが、またにくいです。
事の始まりは靴をなくしたことから始まるんですが、父親にばれないようにと必死な男の子の姿を見ていると、どこの国でも一緒なんだなあと感じずにはいられません。加えて主役の男の子の表情が最高!兄妹のやりとりがほほえましく、またイランの庶民生活も垣間見られ、またそのスタイル、風景が日本とは異なり、別の観点からもとても興味深い映画です。