ヒョン・ビンssiの出ているドラマや、映画には、どれもいつも何かしら感動させられている、いちファンです。(*^^*)
この映画は、日本の作家さんで、井上荒野さんという方の短編小説を映画化したものです。
ある夫婦の、雨の日のほんの三時間ほどのあいだにおこった出来事と、ココロの動きを、
ほとんどリアルタイムで二時間弱のあいだに表現しています。
「ワタシ、出て行く」
その、妻の言葉を、夫はどんなふうに受け止め、何を思い、彼女が出て行こうとする時間を、引き止めたいのか、見送りたいのか。
そして、また、妻は、本当に出ていきたいのか行きたくないのか。自分でも分からない気持ちに戸惑いながら、その短い時間を過ごしている。
そこに迷い込んできた
猫。二人の気持ちが、「
猫」という第三者の登場によって、自分の中に眠り込んでしまって忘れていた気持ちに自問自答しはじめる。
全編、ずーっと雨音がBGMのようにしずかーに流れ続けているのが、とても居心地よく、
会話も、必要最低限にしか交わされません。
この、非常に静かな二人を、この、穏やかな二人の俳優さんが、見事に演じています。
ほんとに、素晴らしい二人でした。
淡々と、無関心にも近い穏やかさで終始過ぎていく中、唯一、彼女が、彼の胸をたたいて感情をあらわにする場面があります。
ずーっと淡々と過ぎていく時間の慢性的な流れの中で、そんんなに激しい表現でもなかったのに、ぎゅーっと、ココロをつかまれた気分になりました。
あまりにも静かで、寝てしまいそうになってもおかしくないのに、眠くなるどころか、ずーっと、映画に引き込まれっぱなしでした。
私は、原作を読んで作品を観ましたが、原作も独特の感じがあってよかったので、これをどんなふうに、映画として完成させるのか非常に興味深かったのですが、「こんなふうにできるんだぁ」と、感動しきりでした。
ベルリン国際映画祭に参加しただけのことはあるなあ、と、実感しました。
とにかく、作品もですが、俳優さんが、二人とも、いい!!
これは一押し!!二人ともけっこう派手なご活躍の経歴なのにもかかわらず、この作品で、より一層の演技派俳優として認識されるのではないでしょうか。
とにかく、いい!! 見る価値ありの一本です。ワタシには、何度も観たい、一本になりました。(*^_^*)
一番心に残ったのは主人公のセイの夫である。セイの心の動きを本人以上に全て敏感に感知していたのは夫ではなかっただろうか。石和の存在により、セイの心の中に立った小さな波に気づく。ただ、それを本人に問い詰めることはしない。ただ、見守る。大きくならないよう念じながら見守る。ただ、見守るだけ。東京での打合せもそこそこに予定より早く戻ってきてセイを見守る。
夫にとって一番の試練は、亡くなったしずかさんの遺品の整理にセイが向かったときである。そこには小学校を辞めて行方不明になった石和が来ているであろうことをなぜかセイは予感していた。夫も自分から離れていくセイを追って、故しずかさん宅に向かう…。しかし、セイは現れた夫にを残して、石和とある場所に向かう。そこがこの本の
タイトルでもある“切羽”である。帰ってこないかもしれない妻を気をもみながら待つ夫の気持ち。“あのとき夫は、床にぺたりと座り込み、私たちが放り出していった作業を一人黙々と続けていたのだ”という切羽から夫のもとに帰ってきたセイの回顧シーンに現れている。戻ってきた妻が自分を呼ぶ声に、夫は振り返り、“ああ、戻ってきたとね”と妻に微笑するのである。
そして、最後に石和が島を出て行くのを、一人で見守り、そっと祝杯をあげる。
そんな愛する妻を見守る夫の物語は、淡くかすかだが、確かに張り巡らされた伏線から読み取ることができる。セイが切羽から引き返してくることができたのはこの夫ゆえなのだろうか。
短編が好きでよく読む。一冊にいろいろな物語が入っていると、読んでいて得した気分になる。音楽や香りは人の記憶を呼び起こすものだが、料理には匂いがありそれぞれの短編の主人公たちはこの先、目玉焼きやベーコンを焼く香りでこの物語の情景を思い出すのだろうな、としんみりする作品集です。