たまたま1994年に中野サンプラザで4公演だけ行われた「山下達郎 sings Sugar Babe」のパンフレットを見直していました。
その中で音楽評論家の渡辺亨さんが『A Ray Of Hope』という
タイトルで寄稿されていました。この
タイトル(フレーズ)…洋楽では決して珍しいものではありませんし、同名の楽曲も数多く存在します。でも、いちばん有名なのはラスカルズの1968年の楽曲でしょう(邦題:『希望の光』)。そう、達郎さんのフェイバリット・グループの1つであるラスカルズの曲にインスパイアされたものなのです。
渡辺さんの文によれば(…本文ではなく注釈ですが…)、その昔、達郎さんが「オールナイト・ニッポン」の最終回(…打ち切り…)の時、ラストにかけた曲がこれだった、との事。言ってみれば、それだけ大切に温めてきた
タイトルを今回、敢えて持ってきた…というところに、このアルバムが意味するところがあるような気がします(無論、その表題がついた『希望という名の光』という曲の存在感を含めて…ですが)。「いかなる社会情勢の変化、いかなる文化状況の変化におかれても…それでも音楽は続いて行く」所詮、音楽の持つ力には限界があり、人を救うことなど出来ないが、人に寄り添い、癒やしたいと願い続ける事やひとときの安らぎを与える事で、尽くす事が出来るかもしれない…そのためなら、どんな状況下であっても、求められる限り、音楽に取り組みたい。音楽は裏切らないし、自分も音楽に誠実でありたい…。こうした思いが詰まったアルバムだと思います。そう書くと重々しいのですが、クリティカルながらもシニカルで、もの悲しいファンク・ナンバー『俺の空』や『いのちの最後のひとしずく』での演歌的な女性詞へのアプローチなど、聴かせどころは外していませんし、タツロー節は依然として健在です。(『いのちの最後のひとしずく』…kinkiの『K-album』を聴く機会がありました。こちらのカバー・ヴァージョンも二人のウエットな歌声がなかなかハマっています。)
シングル既発曲がカッ
プリングを含め、ほとんど収録されていることについて思うのは、「わざわざ『Rarities』のようなアルバムを出さなくても済むように…」などというこのところのラジオでの言動などから察するに、「最終的にはアルバムに収録して帰結させたい」という、生み出した1曲1曲に対しての責任感、誠意…さらに言えば「信念」のように感じますし、いまや「アルバム」という作品形態よりも、配信など「単曲バラ売り優先…」という流れに対して、いわば「昔堅気の職人のこだわり」のような気がします。安易にコンピレーションなどに曲提供をしない姿勢など、いかに1つの曲・アルバムというパッケージ・全体の世界観を大事にしているか…という表れではないでしょうか。同時に、「今の年齢と今後どれだけ現役でいられるか?」という部分で、ストック曲・捨て曲をできるだけ少なくする、というシビアな視点での選択…というところもあるのでしょう。
ですが、「既発曲ばっかりじゃん!!」などと言わず、どうかそれらを含めて、改めて頭から最後まで「通しで」聴いてみてください。新しい発見が絶対にあります。
「JOY 1.5」…良い音になり、悪いはずありません。全7曲中、冒頭で触れた「sings Sugar Babe」公演からは千秋楽の3曲がピックアップされていますし、7曲全て圧倒的な完成度のパフォーマンスです。 早く「2」を出して欲しい!!!
1ほか、曲調そのものは、いわゆる達郎節で、過去にも同種の曲はたくさんありました。
でも、おそらく達郎さんご自身が、その達郎節が映画のプロデューサーだけではなく、映画の観客だけでもなく、一般リスナーに求められていることを熟知したうえで作ってらっしゃることが、マンネリという批判を寄せつけず、むしろ聴く者を感動させる要因になっていると思います。この曲の後に「さよなら夏の日」を聴きたい気持ちになりますが、でも、歌詞は、一高校生の想い出の記録である「さよなら夏の日」よりも、深い世界観が表現されています。そのひとつが「零戦が空を飛ぶはるかな時代から」ということばでしょう。商業広告には向いていない「零戦」ということばは、洋楽に出てくるわけはなく、邦楽でしかありえないことばです。でも、いまどきのはやりの邦楽にはありえないことばの衝撃をもっています。頭の中をガツンと叩かれた感じ。ぼくは戦争を知りませんが、ああ日本の夏、8月は、あの戦争が終わった時期だったんだ、と。
2は、「零戦が空を飛ぶはるかな時代から」ということばを受けるかのように、「信じる神のための争いは止まない。どうして君とは友達にさえなれないの」。
3は、2009年4月25日北海道厚生年金会館でのライヴ録音。イントロで、子どもたちの未来、手塚治虫生誕80周年にささげるパフォーマンスであることがコメントされています。
間奏では、「
鉄腕アトム」を歌っています。
「零戦」(日本の戦闘機)「歴史」「愛の記憶」「夏の夢」「真夏の奇跡」「幼い命」「神」「争い」「友達」「希望」「誇り」「自由」「勇気」「未来」「生命」「静かな叫び」「大事な友達」などのことばに説教臭さを感じるよりも、まともに感動してしまいました。
裏
ジャケットには、正面からではないですが、ギターをもって歌う達郎さんの姿が映っています。