「
巨人の星」のシリーズ第2弾です。前回明らかにされた、小惑星、
冥王星、月、そして人類の起源に続いて、今回は異星人との遭遇がメインの内容となります。
どうしても荒唐無稽になりがちなこのテーマに、著者はバーチャル・リ
アリティをはじめとしたITの知識を駆使して、ハードSFファンの期待にも答え得るよう仕立てています。
宇宙戦争ものとは一味違う「優しい巨人」たちとの遭遇から、最後は別離という結末を設定して、完結編である次作「巨人たちの星」につないでいきます。
ガニメデに駐留し、地球に攻撃を仕掛けてくるナメクジ型宇宙人の掃討の任に当たったのが、親類縁者のない者達の集まり、孤児達の軍隊。壊滅状態ながらもナメクジ討伐に成功し、指揮体系の関係(上官死亡)により少将代行となった主人公が、仲間と共に地球へ帰還、凱旋する。ここまでがほぼ前作。
本作は地球からの救出を待って、これから帰還する、という辺りから始まり、ナメクジ宇宙人の遺物を持って帰る。孤児達の軍隊の生き残りは地球(というかアメリカ軍)では英雄、政治的な思惑に振り回される。ナメクジ討伐にものすごい国家予算をつぎ込んだ政府としては、もう戦争は過去の事件(なんていうか「さらば
宇宙戦艦ヤマト」の冒頭のノリ)。そんな中、いろいろあって、地球は突如攻撃を受ける。
調査により、ナメクジ
戦艦群が地球に向かっており、地球全滅まであと数日。地球にはろくな戦力は残ってないぞ。どうする主人公。
こんな話です。前振り部分が大変長く、ちとネタバレ気味なのは申し訳ありません。
ミリタリものとしては王道。ただ、第1作と同様、クライマックスを導入部分(プロローグでなく、第1章)として始まり、過去回想をするという構成はいまいち馴染めない。一人称小説なので、プロローグにはできないのは分かるけど、第1章に追いつくまで小説の大半を読まなければいけないので、少しイライラする。でも、十分に面白い小説です。主人公、全く熱血漢ではないのに、かなりダイハードです。
あとがきはSFファンにとっては分かりやすい分析ですが、SF慣れしてない人にはピンとこないかも。
要は、SFというのは風刺小説としては時代の合わせ鏡で、ハインライン「宇宙の戦士」は第2次大戦を、ホールドマン「終わりなき戦い」は
ベトナム戦争を、本作は9.11対テロ戦争を、背景にしている、ということです。これ自体は正しい分析だと思います。
ただ、ここはいくら議論してもキリがないかも。9.11以降が「テロ事件」なのか「戦争」なのかで捉え方の違いは出てくるし。
また、「宇宙の戦士」は「正義は我にあり!」って感じ、「終わりなき戦い」は「正義って何だろ?」で、本作は正義云々はテーマではないように思われます(作者自身も、戦場における軍隊、兵士を描きたかったようだし)。
本作、9.11の影響は大きく感じられるものの、そこまで政治的な作者の分析が背景にあるのかは分かりません。理不尽な侵略には立ち向かうっていう気概は明白ですが、「正義」の議論を巡ったドロドロ感は本作には全くありません。
私は、比較的シンプルに、ミリタリ小説として楽しみました。
あと、レトロSFファンとしては、加藤直之の表紙がとても嬉しい。「宇宙の戦士」も「終わりなき戦い」も同氏。ハヤカワ、分かってる。