小学校しか出ていない
田中角栄が、首相になった時は大さわぎだった。
原敬が平民宰相として騒がれて以来の出来事、と言われた。
土建屋として世に出てわずか三十年余、一代で首相に上り詰めた
田中角栄の誰でも取り込んでしまう不思議な魅力について、歴代の
首相や議員、側近たちが語る言葉を編み上げ、人間・
田中角栄の
姿を描き出す。
大きな声、豪快な笑い、ストレートに結論を導き、細かいことに拘らない。
そんな印象とは、実は正反対の神経細やかな人であったと、筆者は云う。
毀誉褒貶は色々あろうが、あの時代であったからこそ存在し得た人では
なかったか。
今の政治家は議席を守ることに汲々としていて、
田中角栄のような魅力の
ある人は見当たらない。
現代が、そのような人の存在を許さないのかも知れない。
田中角栄が亡くなってから約20年だが、彼の功罪はいまだに多くの人々の記憶には残っているだろう。彼は実に人間的であった。
本書は、
田中角栄・人物伝である。著者は
ロッキード事件で失墜した角栄を最期まで追い続けた番記者・早野透。新潟の貧村に生まれ、高等小学校卒という学歴で、上京、軍隊生活を経て戦後、神楽坂から政治家としてのデヴューを果たす。豪雪地帯の”新潟3区”と言う地盤、2人の女、角福戦争・・・そして、首相。戦後の日本政治の体現者としての生涯は異色だが能力があり魅力さえ感じた人も多いはずだ。政界の流れから外されてから最期までの姿には、さすがに栄光と蹉跌を感ずる。しかし、近年言われている”
ロッキード事件の冤罪説“が本当だとしても、角栄はしてやられたのである。
新書版としては要所を掴んでおり好い出来であると思う。