切断 (創元推理文庫)
先に短編集(カウント・プラン)を読み
黒川博行という作家を知った。
そして、長編も読んでみたくなり 手に取った一冊。
冒頭から、いきなり「男」が殺人を犯すシーンから始まる。
そして殺人者は、被害者の耳を切り取り
代わりに殺害した男の耳穴に、取り出した「小指」を差す。
こうして、物語は猟奇的な色を醸し出して進む。
犯人が一体誰なのか?
その部分は、途中で何となく匂ってくるのだが
最後まで飽きさせずに進む、引っ張り具合が巧い。
なぜ、こんな猟奇的な連続殺人を犯すのか?
その意味が、ちゃんと繋がっている。
犯人の男の、無機質さが怖い。
感情が表に出ず、淡々と「殺す」という目的だけを持つ。
女を買った時にだけ、ふと”人間らしさ”というものが
垣間見えるだけ。
この無機質な男に味方出来ないまでも、目的を果たさせてやりたい
などという感情が湧き出てくるのが不思議だった。
事件の全貌が見えた時、得体の知れない、表現の出来ない
「気持ちの悪さ」というものが残った。
それを言葉にすると、ネタばれになるので伏せておくとして…。
読み終えた時、素直に「面白かった」と人に薦められる本だと思った。
そして、もっと他の作品も読みたいとも思えた。
田舎の刑事の趣味とお仕事 (ミステリ・フロンティア)
帯によると、「脱力系警察ミステリ」だそうで、まさにそんな感じです。
田舎の暇な警察署という設定なのですが、コンビニ立てこもり事件にしろ、最後の話の
毒の場所にしろ、田舎だからこそ成り立つお話だと思います。
主人公である黒川刑事とその部下たちが、またみんなそれぞれクセのある人物ばかりで、
会話が漫才のようで、笑えます。
…ところどころすべってる箇所もありますが(^^;)
そして何より、黒川刑事の奥さん!
序盤から登場するのですが、後半へ進むにつれて、そのキャラクターののアクの強さが
ヒートアップしてきて、もうラストあたりはだんだん黒川刑事がかわいそうに思えて
きてしまいました。
肩の力を抜いて読める、お気楽ミステリです!
二度のお別れ (創元推理文庫)
黒川さんの本を読み漁っていますが、これはここのレビューが1つしかなくしかも星3つだったので読まず嫌いで避けてました。でもデビュー作だし、ファンとしては一応、みたいな感じで取り寄せて読んだらこれが止まりません^^
確かに黒川さんの作品は僕のような関西人には親しみやすいのですが、特に黒マメコンビは地味で、東京中心の文学賞受賞の為には、同じ大阪出身の某売れっ子N賞作家のような東京に根を張り、東京に題材を求めた方が受けが良いのでしょう。主人公の肩書きも警視庁所属の警視!とか少なくとも関東以東の県警所属にして。
しかし読後に感じたのは内容は負けてへんでーって事です。阪神は巨人に勝る!みたいな^^事実、前出の大阪出身N賞作家が黒川氏と親しい事を考えると、この小説の犠牲者選びのトリックなど、N賞受賞作執筆の参考にされてしまったのでは??と勘ぐりたくもなったほどです。僕自身某N賞作家も大好きなんですが、彼の立ち位置が関西から段々遠のいて行くほど黒川さんにどんどん引き込まれるこの頃です。
海の稜線 (創元推理文庫)
黒川博行の作品は数作読んだが、この作品は中でも面白い。
軽妙な会話、小気味良いテンポで物語が展開するのは他の作品と共通するところだが、
この作品は特に殺人トリックの種明しに依存することなく、事件の経緯、背景等の意外
性で読者を楽しませてくれる。
きれいな風貌―西村伊作伝
文化学院の創設者、西村伊作さんについては何の予備知識もなかったが(文化服装学院と勘違いしていたくらいで)、読みだしたら厚めの1冊をあっという間に読んでしまった。
大逆事件で処刑された大石誠之助の甥でもある伊作さんは、新宮の山持ちの息子にして、今で言えば大富豪の跡取り。キリスト教や社会主義にも触れるが、それにとどまらず、絵画、写真、服飾、設計、陶芸など、幅広い関心を持ち、特に大石さんの処刑後は、「主義」にも一定の距離を保ち、私財を投入して、学校を創設し、戦争中もリベラルな校風を維持し、投獄されても自分を曲げなかった男。
膨大な文献を駆使して平易な文でつづられたこの評伝は舌を巻くほど面白い。堺利彦さんの評伝である、黒岩比佐子さんの『パンとペン』と併せ読むと、それぞれの人生がクロスする歴史も浮かび上がって、なお面白いのでは?