奇談 プレミアム・エディション [DVD]
原作となった「生命の木」は31ページの短編です、デビュー数年でほかの誰でもない諸星大二郎にのみ描く事が可能と評しても誰も反論できない水準に達していた事にいまさらながら驚きますが、再読してみれば80年代以降の作品ほどの語り口の上手さは感じず、やはり初期ならではのごつごつした印象を受けます、神隠しというエピソードを加えたとはいえよくぞ90分の映画に脚色し、娯楽映画の枠内で充分に原作を知らない観客へも訴えることが可能な佳作に作ったとおもいます、
残念なのがやはりクライマックスの洞窟、原作ではゴシック建築風の巨大空間だったのだが本作ではただの空間、ジュスヘル・イエスの昇天シーンにおける照明の単調さとともに本来ならばあり得るはずのない厳かさに包まれた圧倒的なシーンとなったのに、とおもう、これは原作とともに長い年月を生きた諸星ファンほど自身の想像力の中の興奮が巨大化しているのでしょうがないといえばしょうがない事ではあります、
原作にあって本作で省略したのが「ケルビンの骨」、聖書の新解釈物語としての流れをスムーズにするためと思われるが、「異生物」キャラは決して見てはいけない・決して知ってはならないという諸星作品共通のテーマであり、諸星マンガのホラー度水準が他作家のそれとは違う地平にあるという重要な要素、もし映画パート2があるのならぜひ取り上げてほしいとおもう、
登場人物の中でもっとも「はなれ」を差別するのがカトリック信者たちという設定には妙に納得させられる、人気ホラー作家スティーブン・キングの諸作品はすべてキリスト教の価値観の中で書かれているとおもう、対して諸星作品はキリスト教(だけに限らずその他全ての歴史や宗教の要素をも)を実にわかりやすく相対化して戯画化できる点が作品に深みをもたらしていると考える、
暗黒神話・餓鬼の章 [VHS]
何という忠実で誠実で上質なアニメ化だろうか。
キャラクターデザインをみたときは原作そのままのグダグダな絵(ほめ言葉)に不安になったが杞憂だった。前後編併せて一時間半の「見事な作品」が現れた。どこもすばらしいが、餓鬼の動きとその強さは恐怖である。諸星世界を愛すると自認する方ならこの作品だけはなんとしても見ておかないと。こんな名作がDVD化もされず、このまま消えていくのはあまりに惜しい。たまらずレビューを書いてしまいました。あなたが、武ほどの時間をかけることなくこの豊かな作品を体験できますように。
栞と紙魚子の怪奇事件簿 [DVD]
諸星大二郎の初めての少女向け「怪奇漫画」がドラマ化!主演はプロデューサー「丹羽多聞アンドリウ」が発掘した逸材、ボーイッシュな魅力の「南沢奈央」。アイドルグループ「AKB48」の主力メンバーで、演技力に定評がある「前田敦子」。この2人が次々に起こる「怪事件」を解決していく「コメディ・ホラー」作品。‥原作独特の「諸星ワールド」テイストを実写で忠実に再現するのは非常に困難であるし、不可能に近い。ドラマ化にあたり、あえて無謀な冒険はせずに、主演のアイドル2人の魅力を前面に出したドラマ展開に原作をアレンジしている。原作では立場は対等だが、ドラマでは「南沢・栞」がメインで物語の引っ張り役、「前田・紙魚子」は彼女に振り回される 「狂言まわし」的な役どころ。容姿、性格付けも若干、原作と異なる。原作を原案にしているが変更点も多く、二話のトイレの「ギロチン・トラップ」に襲われたのは原作では「紙魚子」だが、ドラマでは「栞」に変わっている。原作を見ながら比べてみると興味深い。これらの変更で原作の「おどろおどろしさ」は後退してしまったが、テレビならではの「エンターテイメント」性はよく出たと思う。最終回では原作にはない、「栞」に関する「大ドンデン返し」もあり(彼女達の制服姿の違いが伏線とは‥)アイドル主演のドラマとしては楽しく観れたし、「南沢奈央」・「前田敦子」のファンなら要チェックのDVD-Boxだと思います。少し変わったドラマを観たい方々にオススメです!
壁男 [DVD]
ジャンルはホラー映画ですが内容はホラーではありません。なので壁からお化けが出てきて…みたいな恐怖を期待して観るとワケの分からないモノになってしまう場合があるので注意。いわゆる、監督の裏メッセージ映画です。 『壁男』という何かがいる、という新たなホラーブームが起こり、さてその壁男とは何ものなのかと正体を探るメディアと主人公。これを視聴者も一緒に探していくことになりますが、少しシュールなストーリー展開にその答えを見つけることが出来なければ、きっと単に意味不明な映画。なのでこの映画は自分は壁男を見つけられるか?というのが一番楽しい観方なのかもしれません。ただ、会話中に出てくるヒントが露骨でしかも数多いので、難解というほどに難しくはないハズ。 壁にアイディアを持ってきてそのストーリーの組み立ては綺麗で見事。ただオチがど真ん中にすんなり入るので大絶賛はちょっと無理。
壁とメディア。お爺さんの言う「よく分からない」。難しいコメンテーター。よく分からない方はここに注目。
彼方より (諸星大二郎自選短編集) (集英社文庫―コミック版)
「男達の風景」、「カオカオ様が通る」は
何度も読み返した。
「男達の風景」はSFミステリーとしても一級ではないか?
カオカオ様は、ヒエロ二ムス・ボスを思い出した。
映画「奇談」から諸星世界へ入ったが
当分はまりそうだ・・・