紅い花 他四篇 (岩波文庫)
ガルシンの葬儀に、アントン・チェーホフが来ていたということを知っている方もいらっしゃるだろう。チェーホフもガルシンも決して幸せな人生を送れたわけではなかった。二人とも短命での惜しい死だった。
で、この文庫は、ガルシンという悲しき人生を送らざるをえなかった人の、奇蹟のごとき短編群である。私事で恐縮だが、これは涙なしには読むことができなかった。
「紅い花」における主人公の自暴自棄な生きざまには、私のような「人生初心者」ですら、共感させられた。墓場へ持っていく、ケシの花という「戦利品」の虚しいことといったら。徹底的にやられた。打ちのめされた。もちろん「紅い花」だけの文庫ではないが、この一作がなかったら、ガルシンは果たしてどれだけの人物としてとらえられただろうか。
チェーホフもやはり、そんなガルシンに共通する哀しさと優れたユーモアの持ち主だった。
本作を翻訳してくれた神西清先生にはただ感謝のひとことである。あなたがどうしようもなくこどくで、傷ついていて、悲しくなったときに、本書を読んで欲しい。苦しんでいるのは、あなただけではないと心底感じるでしょうから。