ホワイト・ジャズ (文春文庫)
たまらない
例によって最初にやられたのはその文体で、いったい何が起こっているのか分からず、内容もつかみにくく、なんだこりゃ?と思いながら、気がつくと何章も読み進めている・・・。止まらなくなる・・・・。
ばらばらにちりばめられた言葉が寄り集まり、少しずつ流れが出来始め、自分もその世界にほうり投げられている。火薬の匂い、街のざわめき、立ちこめる不安、暴力と血の気配を共有する。ひとつの岩が次第に彫刻を施されそこに無かったものに変貌してくのを見るように、小説も次第に形を見せ始める。そして、読み終わった後、自分が体験した様々のものが一体なんだったのかうまく理解できないまま、不思議な感情の波が起こっているのを実感する。直接的な描写ではない、文体・小説のトーン・内容、全てが絡まって、直接書かれないある種の感情が浮き彫りになって行く過程は、ぞくぞくするくらい刺激的だった。
この体験を言葉にするのは難しい。何度も、「ああ、たまらない!」という言葉を反すうしている自分に気がついた。
たまらない
煉獄の使徒〈下〉 (新潮文庫)
後半になると、一気にテンポが落ちる。
ラストらへんのしつこさと、テンポの悪さと、ヘビーさは正に煉獄。
読んだ後、ドッと疲れた。
お話の流れはオウム事件そのままなので、新鮮味はにやや欠けるが、オウムをリアルタイムに知らない若い世代の人ならストーリーも新鮮で楽しめるかも知れない。
煉獄の使徒〈上〉 (新潮文庫)
馳星周の作品は全部読んでます。今回もいつもと変わらない展開の早さと読みやすさです。人間が堕ちていく様を描くテクニックは凄いの一言。オウムをモデルにしたカルト教団のトチ狂い方と、警察官僚のあくなき権力掌握への執念は、教団と国家権力という立場の差はありこそすれ、本質的には同質なのだと考えさせられる。
他の方が指摘しているように、展開が読めてしまう点は否めないので星4つ。
淡雪記
ダークな「フランダースの犬」という感じ。
けどこれまでの馳星周作品の中では文体も展開もフランクで非常に読みやすかった。一気読み。
主人公も、冒頭だけ読むとそうでもないけど読み進めるうちに実はかなりの食わせ者だってことが
わかってきてなかなかに面白い。
ヒロインの有紀は完全に世の男性が好む理想の女像って感じだったけど
同性の私から見ても魅力的で(何で彼女が主人公をああも気に入ったのかは未だもって謎だけど)
見守る感じでストーリーを追えた。
クライマックスからラストへの展開は簡単に予想できてしまうのでそこまでの感動、感銘と
いったものはなかったけど、これだけの長編の割にはきれいに収まるところに収まっていたと思う。
まあおすすめです。
夜光虫 (角川文庫)
「不夜城」の次に読んだのがこの作品。
日本で使い物にならなくなった投手加倉が、台湾に渡って投げ続ける。
しかし、そこは腕一本でわたりきるにはあまりに汚い場所だった。次第に悪にそまっていく加倉。
アジアの底の深さがこれでもかこれでもかと描かれる。
馳の筆致は、「不夜城」以上に冴えわたる。
私は、ある意味で「不夜城」よりこちらのほうが上ではないかと思う。やはり「不夜城」は1作目なので、構成に稚拙な面もあった。この作品は瑕疵がまったくない。
自分を信頼する弟分を殺す場面では、まるで活字の間から血が噴出してくるのではと思えるほどのリアリティがあった。
さて次は馳のどの作品を読むか思案中である。