地獄に堕ちた勇者ども [DVD]
ある一族の柱たる家長がいなくなることで、崩壊する家族。その崩壊と反対に成長するナチス。この相反するベクトルが理解できるとあとは枝葉末節です。
一度で理解できない方が多いと思います。それはナチスの形成過程(権力掌握過程)をご存知ないからでしょう。一度簡単に調べてからもう一度ご覧になるとわかりやすいと思います。
あと主役は、ヘルムート・バーガーではありません。ダーグ・ボガードとイングリッド・チューリンです。この二人がこの家族の最後のプライドを象徴しているのだと思います。そしてヘルムート・バーガーの最後のシーン、家族の崩壊の中でナチスに取り込まれてしまいました。ここは三島由紀夫氏の戯曲「わが友ヒットラー」の最後の台詞、すなわち右翼化しながらも「右も左も切り捨てる、中庸が一番」と言うような台詞に重なるようなまさにアイロニーなシーンでしょう。この映画に関しては他の方の投稿がほとんど的を得ているので、簡単に推薦の言葉をまとめてみました。家族の崩壊は食事のときのテーブルにすわる人数の減少で表現されます。一家を支えようとする意思のない人間たちの集団ではばらばらに散ってしまいます。逆にナチスは求心力を高めるためにいろいろなことを裏で行なっているのです。タイトルの「地獄に堕ちた」のはこの家族とナチス両方ですが「勇者」ということでこの家族が中心に描かれるのです。最後にナチスは共産主義打破が1つのテーマでした。その意味でこの家族と本来的に相反することはないのです。この大いなる矛盾を、淡々と豪華な映像でつむぎだしてくれる監督には賞賛の言葉しかございません。撮影シーンが特典映像で9分間ついてますよ。これは意外とラッキー。
地獄に堕ちた勇者ども [DVD]
相続をめぐる家長的室内ドラマを背景に、ドイツ鋼業界は本音を言えばナチスとの軍産複合体制の夜明けを待望している。
一方、財界やプロイセン伝統のドイツ国防軍にとってヒトラー子飼いの私兵「突撃隊」は目ざわりである。
新生ドイツのために培ってきた協力関係も、ヒトラー政権が近づくほど煙たくなって罅割れが生じ、ついには粛清に至る。
こうした政治的妥協を巧みに用いたヒトラーの偽装的な中道路線の空恐ろしさを見事に描写した作品である。
この物語の底流には Ha'liebe すなわち憎悪愛がそこかしこに散りばめられていて、登場人物各々が未だ得たいの知れな
いナチスの魅力に撮り憑かれながら、性格的弱点にカンフル注射を打たれ権力に迎合していく小市民の傲岸さをヴィスコン
ティは喝破している。
地獄に堕ちた勇者ども [VHS]
ダーク・ボガードは、この作品の撮影前に言っています。「この役は魅力的ではない」そして、撮影が始まってからは、「シャーロット・ランプリングは今に大スターになる」と予言しました。
確かにもっともでした。この作品のフリードリッヒはまったく魅力的ではありません。ヘルムート・バーガーの映画だったのですから。主役には違いないものの、ベルイマン作品に常連のイングリッド・チューリンともども、おいしいところは皆バーガーが独り占め。ラストの死は哀れです。また、22才のランプリングの眼!すでに、あの眼はありました。そして、あっという間にスターに上り詰めました。ボガードの勘は見事に的中しました。
この作品で、ボガードは「ベニスに死す」での主役に認められるための、ステップを踏んでいただけなのかも知れません。
地獄に堕ちた勇者ども [DVD]
監督のルキノ・ヴィスコンティは貴族の血筋だそうだが、本物の退廃美は貴族文化の末にあり、爛熟した社会にしかない事をつくづく思い知らされる。こういう映画は絶対にアメリカでは作れない。ヘルムート・バーガーの奇形的とも言える怪しさは必見。誰もが良いとかすごいとは思わない映画だと思うので、あくまでも「退廃の美」に惹かれ、倒錯した世界に関心のある方だけ見てください。それ以外の人は見ない方が身のためです。