1991年より連綿と書きつづけられている架空戦記「覇者の戦塵」シリーズの第一作「北満州油田占領」、第二作「激突
上海市街戦」の合本。
戦後、実際に北満州にて発見された大慶油田が、昭和6年、満州事変のさなかに日本によって発見されていたら、という仮説のもとストーリーは始まる。実際の歴史では日中戦争を経て、日本はABCD包囲網と呼ばれる経済封鎖などから太平洋戦争という無謀な戦争を始めることになるが、石油が確保できていたらどうなったのか?戦争は回避できていたのか?違ったパワーバランスを生み出すことになるのか?
谷甲州は上記の仮説を元に一足飛びに破天荒なストーリーに走ることなく、技術者出身らしく綿密な考証をくわえたストーリーを描いていくのであるが、これは以後の巻の中でじょじょに明らかになっていく。
とはいえ、本作のメインストーリーは地味すぎるくらいに地味。架空戦記とは言いながら、派手な航空機や軍艦、戦車は登場しない。
第一作は、関東軍、石原莞爾、地方を割拠した中国の軍閥による油田をめぐる暗躍をメインとして、厳寒の試掘地点の確保をめぐって日本軍の小部隊と中国軍の衝突が唯一の戦闘シーンとして描かれる。
第二作は、昭和7年の
上海が舞台。満州に進出した日本に対する抗日・反日運動が高まる中国国内。中でも先鋭的な運動に見舞われる
上海で、中国正規軍と日本海軍陸戦隊との間で戦端が開かれようとしていた・・・。史実と同様、歩兵装備の海軍陸戦隊と中国正規軍の戦闘が後半4分の1あたりでようやく始まるくらいで、大部分は一触即発状態の
上海を舞台にした国際謀略小説的展開になっている。
地味だなぁ、と感じられたとしても、この巻だけで読むのを止めるのはもったいないことだけは伝えておきたい。
サウンドは’70年代後期のジェスロ・タルサウンドだが、楽曲は’70年代中期の匂いも感じさせる、少し以前に戻ったようなサウンド。音の仕上がりが、ここ数作のものと違い、次作「A」の雰囲気があります。
このCDの日本盤が出ていないよう(?)なので、ファンの間では評価の低い作品なのかもしれません。ですが、個人的には好きです。(
ジャケットも異色で好きです。)ジェスロ・タルとしてはここ数作同じようなサウンドできていますので、マンネリ気味だったのかもしれません。この後、問題作「A」の発表、プラス’80年代迷走の時期を迎えてしまいます。(バンドとしては、低迷期)