恥ずかしながら彼女の演奏を聴くようになったのは3年ほど前からだが、本当に知らずにいた期間が惜しまれてならないくらいの素晴らしい演奏である。
日本が誇る、いや、世界にとって宝であろう。
彼女にはもっと日本で演奏して欲しいし、録音ももっとして欲しい(私個人としてはブラームスのコンチェルトが聞きたい)。
どれも素晴らしい彼女のCDの中で、私のBESTを敢えて決めるなら、それは「チャイコフスキーの
バイオリン協奏曲」とこの「パガニーニのカプリース」であろう。
その音は、演奏というより、もはや
バイオリンそのものが神に命の息吹を吹き込まれ、ひとりでに歌いだしたかのようだ。
彼女の音楽には、これ見よがしな作為がまるでない。
水があふれ出し、川となって大海に注いでいくように、音楽が自然に循環してゆく。
作曲家から楽譜に書きこまれた様々なメッセージがMIDORIの演奏により、声になって吹き返す。
ため息しかでない。
これまでクラシックというとピアノ中心だった私が、このところ
バイオリンばかり聞くようになったのは、「MIDORI」、この史上稀に見るアーティストのせいなのは言うまでもない。
知らぬ人はぜひ、聞いてみるべきである。
せっかくこの世に生を受けたのだから、MIDORIの演奏を知らずに人生を終えてしまうのはあまりに味気ない。
イタリアの演奏家だからでしょうか。いい意味で味わいのある演奏だと思います。
カプリースはともすれば、練習曲を極めた感が強く、技巧のみが誇張されるような演奏家も多いと思いますが、音色が踊るようで、聞いていても堅苦しさがありません。
お勧めします。
21世紀に再びパガニーニの亡霊が舞い戻ってきた。
ラ・カンパネッラの作曲者だ。
かのフランツ・リストを狂気にさせ超絶技巧へと導いたヴァイオリニスト。
ゲーテはパガニーニのことを
彗星と詩った。
ショパンやラフマニノフでさえもパガニーニの衝撃を描き残している。
21世紀となった今でも史上最高のヴァイオリニスト。
ヴァイオリン協奏曲No4のスコアがみつかったものの、肝心なヴァイオリンの独奏譜が見つからない。
スコア譜という名の亡霊が独奏譜という自分の無き頭を人間の肉体を駆使して探し求める物語。
亡霊は100年以上自分の頭を探し続けていた。
パガニーニは常に
ベートーベンの交響曲第5番を手本としていた。
曲の冒頭から突然恐怖が人々に襲いかかる。
作曲家は自分の息吹を一枚の楽譜に封じ込める事が出来る。
天使が守ったのか、はたまた神の仕業か、たった一枚の楽譜が戦火をも逃れ今なお残っていた。
芸術家の魂とは錬金術師さながら不老不死だ。
ニコロ・パガニーニは幼い頃からヴァイオリンを遊具として親から与えられたに違いない。
当時の
イタリア人はパガニーニのことをジェノヴァノの
魔術師と呼んだ。
真のヴィルトオーソとは国境を超え歴史をも超越するのだろう。