「アップルソング」を手に取って、戦争も大きなテーマとして書かれていると知りながら読んでみたいと思ったのは、ひとえに小手鞠作品だったからです。小手鞠るいさんの書く、心地の良い文章を欲していたから。それが戦争もので、読むのは苦しいところが多々あるかもしれないけれど、彼女の小説ならきっとどこかに何か人間の温かさ、救いがあると信じていて、後味が悪いだけの作品ではないとわかっているからでした。
実際は、読み始めるとそんなことを考えないくらい、没頭して、とにかく読み続けました。不謹慎なことかもしれないけれど、単純に小説として傑作です。ストーリーが束ねられて、サプライズ的な展開があり、最後にひとつに繋がる。読み終えたときの気持ちのいい疲労感とすがすがしさは小手鞠作品共通のものだと思います。
こんな作品を完成させるまでには、かなりの時間と膨大な量の調べものが必要だったに違いない。作者自身も経験していない第二次世界大戦のことも、実際にその場にいなかったであろう事件や紛争など、今までの小手鞠作品を代表する恋愛小説とはかなり異なります。
共通しているのは、
京都や
ニューヨークなどを主に、出てくる場所を愛おしく思っていることが伝わってくる描写と、登場人物たちの話し言葉や方言、そして過去と未来をたくみに前後し読み手を不思議な時間旅行に連れていってくれる、まるで詩のように心地のいい彼女の書く物語だということ。
大変な苦労をして書きあげられたことを察するが、こんな作品を生み出してくれたことに、心から感謝したいです。
これからも私は、自ら進んで、戦争の記録や写真や物語を見たり読んだりしないと思います。
だけど、自分とは関係のないことだとは思わないし、過去の事実を知り、今起こっていることから目を背けずに知ろうとするだろう。きちんと、学びたいと思う。自分の子供にも、きちんと、伝えなければと思う。
低レベルな感想で恥ずかしいですが、今を生きる私たちが人間が生きる未来の地球を残すために。