見かけは三人称の文体なのだが、実際は浅井ケイと春埼美空、二人の高校生の視点で交互に語られている。
二人が住む咲良田は、一見するとただの沿岸の地方都市。ただ一点、住民の半数以上が超能力者だということを除くならば。そして、浅井ケイは全ての記憶を忘れない能力、春埼美空は三日だけ世界を巻き戻すリセットの能力を持っている。
超能力者といえばバトルものという展開を想像しがちだが、いきなりそうはならない。何せ二人の能力はバトルに直接役立てられるようなものでもない。だから彼らの下に来た依頼も、死んだ
猫を生き返らせて欲しいという、一見平和で、でもある意味、過去を捻じ曲げるという無謀なもの。しかしそれが出来てしまうのがリセットという能力だ。
この依頼は単なるきっかけに過ぎず、それ自体に意味があるわけではない。すべてが終われば、まるで何もなかったかの様に世界は平穏を取り戻す。重要なのは、きっかけによってはじまる人との出会いであり、それが引き起こす悩みであり、過去の記憶を掘り起こして後悔することであり、何かを変えようと動くこと、それ自体である気がする。
本当は何も起こっていないのかも知れない。だから、どんなに能力を駆使しても、何も変えられないことはある。しかし一方で、少しは変わる部分もある。そしてその積み重ねは周りに影響を与え大きなうねりとなる、こともあるかもしれない。
派手な物語ではない。世界が決定的に変わることもない。ただ、静かな物語の中にも何か大きな動きがある。そんな感じの作品です。