TVのコメンテーターのみならず、今や日本映画監督協会理事長と、師匠筋の大島渚同様政治力にも長けた資質があると思わせる崔洋一。これは彼の記念すべき初監督作。内田裕也が共同脚本と主演を手掛けた作品でもある。
主人公は派出所の警察官。出世の見込みもなく、女房からは逃げられて、まるで将来への夢も希望も持てない運のない真面目な中年男が、孤独感と挫折感、鬱屈感を沈潜させながら、女、ギャンブル、酒に溺れた挙句、どうしようもなくサラ金地獄、そして破滅的に郵便局に押し入り、金を喰らう。
今では及びもつかない事だが、映画が製作された83年当時、日本映画は、70年代の政治の季節が暗澹たる結果に終わり、虚無感と閉塞感を持ちながらの、反権力、反社会的な、重い、暗い、激しい映画が主流だったと思うが、今作も、もがき苦しみながら堕ちていく男を通して、管理社会の弊害と、国家に対する暴力や性の解放を描いたようなテーマだったと記憶する。
でも、当時はまだまだ観念的な意味合いが強かった物語が、今日、その"事件性"だけで捉えると、決して絵空事とは思えない、むしろ、爆発の臨界点に達した時には、自己中心的な狂気が加わって、他者への攻撃に向けられる事が多い辺り、もはや現実が当時の虚構を追い越してしまった感が強い。
小泉今日子の映画デビュー作であり、アン・ルイス、ビートたけし、横山やすしも登場し、何より中村れい子の見事な脱ぎっぷりが観れる、これは数多い崔作品の中でも屈指の傑作。
今は亡き山城新吾監督のナンセンス?ドタバタコメディー。注目はJACの美人アクション女優だった森永奈緒美さん。彼女目当てで当ビデオ入手しましたが、いかんせん出演シーンが短すぎ。ともあれ褌姿の森永さんの貴重映像ありますので、見所はその辺りかと。dvd化されてないので稀少なVシネではありますが。
「金田一耕助から十五年……天河に浅見光彦、走る」がキャッチフレーズだったが、まさにその通りであった。内田康夫の世界観がほとんど感じられず、完全に市川崑の物語である。結局金田一でも浅見でも誰でもよかったのである。主要キャストも横溝シリーズの面々である。犯人は予想通り岸恵子である。刑事はもちろん加藤武。
ただ綺麗な画を撮りたかっただけである。確かに、この上なく美しかった。能舞台や森のシーンなどは秀逸。さすがは市川崑である。
浅見の素性がわかった途端に刑事たちの態度が急変するシーンはちゃんとあってのでよかった。あれは「様式美」として熟しているからな。水戸黄門の印籠や
織田信長の「敦盛」と同じである。
当時三十代の榎木孝明があまりに男前過ぎてしびれた。のちのテレヴィドラマ版でも彼は浅見光彦の役を演じ続ける。テレヴィ版では浅見の母親が出てくる。演ずるのは野際陽子である。ちなみに兄役は西岡徳馬である。「ん」。おかしくないか。野際は1936年生まれで西岡は1946年生まれである。すると浅見の兄は浅見の母の十歳の時の子ということになる。
いい映画だと思います。