おまえさん(下) (講談社文庫)
上下巻通じての感想。
宮部さんの作品は温かな情感たっぷりで
読後感がよくて欠かさず読んでいます。
でも、この『おまえさん』、いつもに比べて
なぜか読むのに時間が掛かった。
それはどうしてか。
話の流れはとんとん進むし、脇役含め人物は魅力的。
ただ今回の作品、話し言葉の間の説明が異様に多かった気がする。
「セリフ〜」そう、(なになに)なのだ。←と、セリフがもう一度要約される。
「セリフ〜」(傍らにいる人々の様子が逐一描写される)。
下手な書き方ですがわかっていただけるでしょうか?
『んなもんちゃんと読んでたらわかるって!』
という’ト書き’がものすごく多かったので読むのに余分な力が必要で
時間も余計に掛かってしまった。
ぼんくら(下) (講談社文庫)
うーむ、こういう結論だったか…。
時代推理小説として、際立った傑作とは言いがたいが、キャラクター造形の妙とあいまって充分楽しめる作品にはなっている。特に後半異彩を放つ美小年探偵弓之助、人間テープレコーダーおでこ、そして岡っ引きの政五郎。
全てが「ふ」に落ちたわけではない。特に冒頭の殺人事件の処理の仕方は納得がいかない。
ただ、短編小説集と思わせて、ひとつの長編に仕立てた宮部みゆきの今回の「仕掛け」は気に入った。
あんじゅう (新人物ノベルス)
「おそろし」の続編。
続編が出版されただけで嬉しい。
前作は心に傷をもつ娘おちかが、
一話語りの百物語の聞き集めを始めることで、
生きるチカラを取り戻していくストーリー。
更に人の心に棲む悪を大きなテーマとしており、
その象徴の屋敷が登場、悪との対決、戦いを描いた、
Sキング的な物語でありました。
今回の「あんじゅう」の舞台は三島屋。前作と同じ。
登場人物もおちか、伊兵衛夫婦、女中、番頭と基本は変わらない。
ただテーマが違う。
前作の「人の心に棲む悪」から、
本作は「愛」がテーマになっているように思う。
メインのエピソードは、
「紫陽花屋敷」と呼ばれる空き屋敷に棲む怪異「くろすけ」。
これは愛情がテーマ。
どこか清々しいストーリー。
新人物往来社のHPで宮部みゆきのインタビューを読むと、
奇数巻は深刻な話、偶数巻は明るい話でいこうと思っている。
「おそろし」と「あんじゅう」の両方を読んでいただくといい感じにカクテルになる。
両方を読んでほしい旨が書かれていた。
なるほど、本書はほろっとする怪談潭の回であった。
だから一貫して優しさが見え隠れするのだ。
一気に読み進められる完成度。
最後まで予想できないストーリー。
新たな登場人物青野利一郎。
文句なく面白い。
次作にも期待したい。
蟻地獄
あまり本読みませんので参考にならないかもしれませんが、インパルスのコントが単純に好きなので買いました。本苦手でもサクサク読めて、分厚い物を読んだ感じがしなかったです。内容は内容でとんでもなく闇世界の話ですが、なんかいい話でした。
おまえさん(上) (講談社文庫)
「ひぐらし」「ぼんくら」と同じ主人公達が活躍する、江戸時代人情捕物帖最新作です。
辻斬りのように殺された身元不明の死体が一つ。それからほどなくして生薬屋の主人が自宅で密室殺人のような状況で殺される。傷跡から察するに同じ犯人による怨恨の線が強そうだが、果たしてこの二つの事件に繋がりはあるのか。また誰が何の目的でやったのか。この事件を、八丁堀同心の井筒平四郎とその甥の天才美少年弓之助とおでこの三太郎が追う。おばんざい屋のお徳や親分の政五郎をはじめとしたいつもの面々に加え、今回は新顔の出来物の同心も登場。
個性豊かな登場人物達が、本筋の殺人事件と微妙に重なり合う幾つかの事件を行きつ戻りつしながら解き明かしていく。。。
ということで、この作品、メインの一つの事件だけに絞ればもっときりりと引き締まった捕物帖になったと思うのですが、あえて作者はそうしていません。完全に余話といった話もあれば、人物像の陰影を濃くするための事件もあり、かと思えばそれぞれの人物の心境の変化を丹念に追うための事件もあり、といった感じでややもすれば冗舌、中だるみしているように思える部分もあるのですが、この作品の登場人物たちのいる世界・空気・世界の時間の流れを感じるという意味ではこういう群像劇スタイルも悪いものではないと思います。引き締まったミステリとしては評価できないかも知れませんが、人情物のシリーズ物としてはこういうのもよいかなと思います。
多くの女性達のそれぞれの生き方に思うところを持ったり、それぞれの人生について思いを巡らす男性陣の屈託に共感するもよし、また或いは少年たちの成長を微笑ましく読むのもありで、ゆったりと秋の夜長を楽しめる作品ではあります。