完本 酔郷譚 (河出文庫)
倉橋さんの最後の作品は,ファンにとってはこの上なく貴重なのに,ここでの扱いは何だろう.300ページにもなろうという掌編集を,ひどく薄い紙に印刷して品格を落している.もっと立派な形で,とのコメントは全くもっとも.それに加えてがさつな解説.これは '他人を不愉快にしない作法' を身に着けていない (交歓, 1989, p.151) 者の仕業で,読むに耐えない.そもそも慧君は '桂子さんもの' の中の人物で,従って平安朝女流文学のお約束である色好みの伝統にのっとっていることは,はっきりしている.これが判らなくて何が解説だろう.折角の酔郷譚完本だけど,この駄文の為に減点は致し方ない.倉橋さんごめんなさい.
夢の浮橋 (中公文庫 く 3-2)
Bildungsromanを教養小説と訳すのは、適切でない。人格形成小説か。それはともかく、城の中の城、シュンポシオン、交歓と書き次がれる桂子さん物語の最初の一冊。話は、倉橋流の清冽な無道徳さに始まり、桂子さんの学生生活、結婚に及ぶ。まだ、後期の文体ではない。しかし、とにかく美しい物語である上に、あとに続く作品の理解には不可欠なので、推薦する。
聖少女 (新潮文庫)
今は故人となった作者が評する通り、この作品は作者の最後の少女小説でしょう。主人公・K=僕のヘンリーミラー調の語りがたまりません。今や当時の風俗は古くなってしまいましたが、本質のラディカルさは消えません。これ以降、作者は徐々に、桂子さんシリーズに代表される様、ただの保守になってしまいます。