新選組 [DVD]
私はNHKの新選組を数回しか見ませんでした。何故なら先にこの新選組を観たからです。
“私の中で新選組といえばこの人”という固定観念はなく、この作品以外にもいくつかの昔の時代に作られた新選組を観ましたが、どの作品も明らかにNHKを凌駕する秀作です。
その内の一つがこの作品です。
他の方のレビューで「おやじくさい」という意見は確かにごもっとも。しかし私が思うに、実際の新選組に年令の近い若々しい人でも、実力があれば別ですが、例えばNHKの様な事になると画にも説得力がなくなり、若いだけではどうにも出来ない“壁”が出来ます。演技も未熟(全員がそうとは言いませんが)でビジュアル面、話題性だけに終始した主役陣で、脇をベテランで固めても、芯がしっかりしていなければ作品自体の質を壊してしまいます。
その点を考えれば、熟練した豪華な俳優陣による、中味のある見事なこの作品は、十二分に観るに値するものだとオススメ出来ます。
夫婦善哉 [DVD]
「好きだ!」とか「愛してる!」の台詞はほとんどでてこない。恋愛をはぶくんでいく過程も描かれない。だから、登場人物の二人がなんで相手を好きになったかも明確にはわからない。
しかし、傑作の「恋愛映画」であることは間違いがない。映画が終わった後は、人間の情欲の奥深さに圧倒される。
「おばはん、よろしゅう頼んまっせ」。雨の降る中、すべてを失った柳吉が蝶子になにげなくこの台詞をかけるラストシーンに向けて、物語は進行する。
事件らしい事件がおこるわけでも、複雑な人間関係があるわけでもない。でも、二人とも、社会や他人と折り合いがつけることが困難で、少しづつ何かを失っていき、相手以外の居場所をなくしていく過程が物語の主軸である。
世界の中心で愛で叫べば、そこに恋愛が成立するほど人間関係は甘くはない。「愛を叫び」恋愛を獲得するのではなく、喪失を繰り返し「これ以上どこにも行けない場所」が見つかる(見つけるのではなく)。恋愛の本質などわかるはずもないけれど、私はどうしても、本作や「浮雲」や「洲崎パラダイス 赤信号」など日本の傑作恋愛映画が描いてきた恋愛に惹かれるのだ。
ちなみに、その喪失の過程での森繁久弥の「少しずつ行き場を失っていく」演技が本当に素晴らしい!特に、実家から勘当されることを聞かされ、蝶子の部屋に戻り、昆布を煮るシーン。ただごとではない。ぜひ、映画館の大画面で見て欲しい。
獄門島 [DVD]
金田一耕介のシリーズはこれまでにも多くの監督により撮られました。どの映画も素晴らしいと思いますが、横溝正史の作品を実に巧く表現した監督は市川昆を除いていないと考えます。原作の時代背景と映像の構成、そして配役。市川昆監督独特の、特にこのシリーズでのカメラワークが小説に表現する世界と雰囲気を映像化しています。金田一耕介の飄々とした風貌も石坂浩二でしか表現出来ないと思いますが、いかがでしょうか?石坂浩二の表情と目を見てください。金田一耕介が何かを閃いたときのカメラワークを見てください。市川昆監督は最高です。また、映像と演出、その時代を私は知りませんが、あの時代に暮らしていると錯覚してしまうような、日本の耽美な世界はこれだ!と思える映像作品ですね。