フライング (紙ジャケット仕様)
今日、CD“Flying”が届いた。何故、自分のレコード棚に6枚目の“Summer Shade”までしかないのか分かった。
『ペパーミント・モーニング』『あなたにテレポート』『ムーンライトジルバ』など、以前にも聞いたことがあり、非常に「耳に心地よい」。しかし、これは褒め言葉ではない。
もちろん、彼女の一番の魅力である、限りなく透明に近い、澄みきった美しい声は存在する。
しかし、「甘い歌声」ではなく、「甘えた歌い方」(に聴こえるのは私だけかも)で詩に欠如するものを、いや失われたものを、必死で補おうと歌っている感すらある。(そこがまた、堪らなく可愛いんだけど)
『Today』は Beatles がレゲエをやったらこうなるだろうというサウンド。『黄昏遊泳』『夢色グライダー』の安っぽいトランペット。基本的に、やまがたすみこの世界にホーンセクションは場違い。『私春記』のクサイ詩には、背中が痒くなる。
はっぴいえんどの3/4がバックに参加していることが、一大原因と思われる。彼女の魅力を蔑ろにして、「ホワイトアルバム」のような音を展開していることだ。
Bob Dylan のフォークからロックへの転身は、歴史的必然性があった。彼女の「少女」から「大人の女性」への転身も止むを得ない所だが、何ら内的必然性が語られないことに問題がある。何よりも、彼女自身が詩を書かなくなったことが決定的だ。
しかし、ファンの立場から、好意的に弁明すれば、あのランボーですら、19才で筆を絶ったのだ。
ノスタルジックな牧歌的イメージ、メルヘンチックな私小説的世界、乙女チックな幻想的カタルシス。これが彼女の最大の魅力であり、その詩才を維持するのは不可能であり、絶対に男には書けないものだ。事実、山県すみこにしか書けなかったのだ。
花は散るからこそ美しいのだ。「少女であること」「乙女であること」には時間的限界がある。それ故にこそ、6枚目までの存在価値がいっそう増すのである。
ゴールデン☆ベスト
近年、彼女のアルバムがCD化されつつあるとはいえ、今回のベストアルバム発売には本当に嬉しいものがある。とりわけ、「むらさき色の風」や「あの日のことは」等の初期の名曲がデジタルで聴けるのは何より嬉しいし、未CD化「すみこファイル」でのカヴァー曲や童謡風の「くいしんぼうカレンダー」が収められているのもいいと思う。当時にしては高音部が伸びた録音が素晴らしいし、すみこの声もテクニックに頼ることなく素直で瑞々しい。ベスト盤である以上、人によっては「あの曲がなぜ入っていないの?」となることはやむを得ないことだろう。
個人的には、たとえば「ママレード色の恋」や「あて名のない手紙」「琥珀色のスウィング」等も入れて欲しかったと思うのだが、それは贅沢な希望として、今回、ベスト集として、全シングル曲(AB面)を収録したということは良かったと思う。今後は全アルバムのCD化を願いたいが、それが無理ならアルバム曲のベスト集を発売していただきたいものだ。
やまがたすみこは現役時代、シングル・アルバム共全くといっていいくらいにヒットから見放されていた。普通のシンガーであれば、とっくに世間から忘れられても仕方がないと思うが、ファンは決して忘れていなかった。今回のCD発売を通して、彼女へのファンの想いが今でも衰えていなかったということについても、何とも言えない嬉しさを感じた。
サマー・シェイド
今までの立ち位置から軸を変えて、その違った位置についていくかついていかないか・・・ひとつのファンの別れ道的な作品がよくありますね? (このアルバムの例を挙げるなら太田裕美の「あなたらしくわたしらしく」でしょうか)
このアルバムもそんな作品のひとつでしょう。
個人的にはこのシティポップス寄りになったやまがたすみこに拍手を贈りたい。
確かに発声は変化したが、すみこの持つクリスタルヴォイスの新たな輝きのひとつだと僕はとらえている。
「夏の光に」はやはり名曲だと思うし、「素敵なゲーム」などにおける60's風ナンバーも可愛らしくていい!
素直な素敵なアルバムだよー。