渦巻ける烏の群―他三編 (岩波文庫 緑 80-1)
『渦巻ける烏の群』です。小豆島出身のプロレタリア作家、黒島伝治の反戦小説です。
小豆島出身で反戦小説といえば、壺井栄の『二十四の瞳』が有名ですが。
表題作『渦巻ける烏の群』の方は、舞台は極寒のシベリアです。
一九一七年に起こったロシア革命、それに対して行った出兵が題材となっています。作者もまた出征しており、その時の経験に基づいて著した作品なので、題材としての珍しさ、そして目にした現実を元にしているというリアルさがあります。
ロシア革命に対して、なぜ日本が出兵を行ったのか。そこにはもちろん領土的野心など歴史的背景、理由があるのですが、本作品を読むにあたって、そのような理由は知らなくても構いません。
作中に登場する兵士たちは、理由すら知らされずにロシアへ行かされ、何のために闘っているかも知らずに、ただ生きたいという思いだけでパルチザンと戦い……
ここからは物語の核心になってしまうのですが、……という理由で雪の中を無謀に行軍し……となります。
基本的には、起こった事実(小説であり、あくまでフィクション)を述べて、最後にこうなった、という感じですので、二十四の瞳のような演出要素は無く、その分、読者の心に訴えかける反戦の声は控えめです。
演出要素不足の中には、文章も含まれます。巧みな比喩表現や豊富な語彙が駆使されているわけでもありません。文章自体は読みやすくはありますが、他の著名な文豪と比較すると上手いとは思えません。現代の観点からするとやや洗練度が低いともいえます。
文章で飾りが無い分、記してある物事と著者の反戦メッセージがストレートに伝わる、という面もあると思います。