ハラスのいた日々 (文春文庫)
子の無い中年夫婦宅に柴犬の仔犬がやって来て、亡くなるまでの
歳月を描いた随筆。
(老年期の雪山での遭難を除けば)初めて犬を飼ったどこの家でも
見られるであろう驚き、喜び、小さな事件といったささやかな
日々が綴られています。
長じたハラスが仔犬の父親となり、作者がまるで孫が生まれたかのように
喜ぶ記述や犬の表情アラカルト、初めて読んだ時は『ふ〜ん』位に
思っていましたが、数年後犬を飼ったとき作者が感じた事が実感として
よく分かりました。
と同時に作者が自分の犬を心から愛し、愛する事で満たされ、
犬の隅々まで見落とす事無く見ている事が伝わって来ました。
『最も愛した相手であったとき、その死に人と犬との差があろうか』という
終盤の述懐は全ての愛犬家の胸に迫ると思います。
スナップもふんだんに本の中に収められていて、生前の暮らしぶりを窺う事が出来ます。
ガンコおじさんと素朴な柴犬のカップルはジャパニーズトラディショナル。
風の良寛 (文春文庫)
瀬戸内寂聴さんの「孤独を生ききる」という文庫本を読んでいたら、
最後の方で良寛に関する記述があり、何となく興味を持ってしまいました。
ちなみに「孤独を生ききる」の方は、女性向けの本だったようで、
男の自分にはよく分かりませんでした。
家を棄てて、家族を棄てて、何もかもを棄てて、無為に生きる乞食僧、
というのが良寛の実像のようですが、確かに本書を読む限り、そんな
感じですね。現代風に言えば完全にホームレス状態です。
草庵という簡素な住まいはあったようですが・・・
この本では良寛の残した詩や歌がたくさん紹介されています。
原文や読み下し文ではなかなか意味が分からないのですが、
著者が分かりやすい意訳を付けてくれているので、なんとか意味は取れます。
なかでも私がとても印象的だった言葉が「清貧」というものです。
辞書によれば、私欲を捨てて行いが正しいために、貧しく生活が質素であること。
少々カッコつけて言えば「清く貧しく美しく・・・」ということでしょうか。
良寛は道元の正法眼蔵や老子や荘子を座右の銘とし、生涯を通じてそれを
ひたすら実践した人です。
本書によれば、正法眼蔵には以下のような記述があるそうです。
学道の人は、まずすべからくらく貧なるべし。財多ければ、必ずその志を失う。
貧なるが道に親しきなり。
また、荘子には以下のような記述があるそうです。
吾、以(おも)えらく、無為こそまことの楽なりと。又、俗の大いに苦しむところなり。
故に曰く、「至楽は無楽。至誉は無誉」と。
現代社会において、良寛の生き方を実践することは、ほとんど不可能だと
思いますが、彼から多くのことを学ぶことができます。
自分なりの解釈では、以下のような人生を送ることだと思います。
・名利を求めず清貧に生きること。
「人格者」とはこのような人のことを言うのではないでしょうか。
決して、社長・実業家・政治家・学識者のような人を指すわけではないのです。
このような人はむしろ人格者の対極にいる人です。道元ならそう言うでしょう。
ただし、ここに1つの問題が生じます。
このような生き方をしていると、女性にはまったくモテないでしょう。
女性は貧乏な男が大嫌い、女性は地位や名声のある男が大好き、
女性はお金持ち(利益を生む男)が大好き、、、まったく逆ですよね。
男は本能的に女を求めますが、その女は名利を求め清貧を嫌悪する。
これはいったい何を意味しているのでしょうか?
答えは明白ですが、それを言うと世の女性に袋叩きにあいそうなので言いません。
さて、本書を読み終わった後で世間を見渡してみると、今の世の中はどこまで
汚れてしまったのかと、心の底から悲しくなります。
私利私欲を満たし、人を騙し、人を傷つけ、欲望のままに貪り合う。
私はもともと貧乏ですし女性にも相手にされていないので、
「名利を求めず清貧に生きること」を座右の銘にしたいと思います。
良寛が万葉集の歌に触れて大きな喜びを感じたように、
私は音楽の旋律に触れて喜びを感じるような人生を送りたいです。
なお、ヘタな人生論より良寛の生きかた(河出文庫)という文庫本もお勧めです。
こちらは、原文や読み下し文はなく、現代語訳(意訳)だけを紹介した
とても分かりやすくて読みやすい本です。特に若い人にはお勧めですよ。
名利に使われて、閑(しず)かなる暇(いとま)なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ。
すらすら読める方丈記
人生の折に触れなんども方丈記を読み返したという著者の訳は非常に
わかりやすく、要所要所において著者の理解が参考に述べられている
のも大変に興味深い。あくまで、参考程度に慎ましやかに添えられて
いるそれぞれの参考の意見自体方丈記の魅力を高めている。
この本を読み、私は古典への親しみを一層深くした。これは、
訳者の力によるところが大きいように思う。大変良い本だった
すらすら読める徒然草
高校時代、古典の授業は退屈でしたが、最近ちょっとしたきっかけで興味を持つようになりました。私のような入門者にとっては、とても読みやすい本です。抹香臭い随筆とばかり思っていたのですが、中野さんの解説で、とても身近に感じるようになりました。本の大きさもちょうどいいし、なにより原文にルビがふってあるのが、うれしいです。早速、音読に挑戦です!
足るを知る 自足して生きる喜び (朝日文庫)
定年を数年後に控え、定年後どうやって生きていけばいいのか、暗中模索している。現役を続ける人、趣味三昧の人、晴耕雨読の人、各人各様。でも私にはどれもしっくり来ない。たまたま、ガンから生還した女性が「足るを知る」心境になり、生きることが幸せだと言っていたので、この言葉が気に入り、本書を手に取った。
自分自身の心が弱っていた時だったためか、全ての言葉た頭に染みいるように入ってきた。何も貧乏が良いと言っているのではない。自分の立ち位置を一段下げてそこから自分を見直してみれば、全てが足りているし、それは凄く幸せなことだ。「生きてるだけで丸儲け」ということばあるが、「足るを知る」とはそうゆうことだ。「自足した柔らかな気持ちで居るとき、人はリラックスするのであり、潜在能力が沸いてくる。心が欲望や恐怖に駆られると、この能力は意識下に深く隠れてしまう。それを如何に呼び戻すか。それは「自足の心」ではないだろうか」という言葉に痛く感動した。度々加島祥造の老子が出てくるが、こちらも是非読んでみたいと思った。