ああ玉杯に花うけて・少年賛歌 (大衆文学館―文庫コレクション)
主人公・千三は成績優秀ながら貧しさのために中学校に通えない身。物語は,彼とかつての同級生たちとの交わりから起こる事件を記した前半と,貧乏人を集めた私塾でOBの一高生と出会い,中学校との野球対決を通して立身出世を目指す後半に大別されます。
登場人物の分かりやすさは,さすが少年誌。いつでも心優しき模範生の光一。助役である父の権勢を利して暴れ回る巌。医者の息子で何かにつけて気取る手塚など。
全体を通して旧制中学の生活が垣間見えるわけですが,校長を人格者として崇めたり,弁論大会では社会主義的主張を英雄待望論で抑えたりなど,皇国史観に根ざした表現が散見します。そういう時代だったんですね。
しかし,公の場では一歩も譲らず争いつつも,そこを離れれば会うだけで愉快な気持ちになれるという,千三と光一の間に流れる健全なライバル心は,時代を経ても変わらないものだと思いたいです。