ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ~ベスト・オブ・ヘレン・メリル
「ニューヨークのため息」と形容されたヘレン・メリルのベスト・アルバムです。冒頭の「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」は、クリフォード・ブラウンの名演奏もあり、今も彼女の代表作として聴かれています。半世紀前のジャズ・ヴォーカルですが、未来に夢が一杯感じられた時代のアメリカの良さを体感できるような温かいハスキー・ヴォイスですので、今でも多くの日本人に愛されているのはよく分かります。
ベスト・アルバムだけあって選曲も共演しているミュージシャンも申し分ないですね。
1曲目と同じメンバーでの「ス・ワンダフル」の疾走感と爽快感は格別ですし、「恋に落ちた時」のようなバラードは、形容された魅惑的な声をたっぷりと堪能できます。本領を発揮した曲でしょう。
MJQの名演奏で有名な「朝日のようにさわやかに」もここでは、スローバラードとして始まり、見事なスゥイング感をもった歌唱で綴られています。
イギリスのトラディショナル・フォークの「わが恋人の黒髪」を聴きますと、声の魅力に頼った歌手ではないのがよく分かります。言葉をかみ締めるように大切に語りかけるこの曲は、歌心がなければリスナーに到底届きません。心の奥底に潜んでいる哀しみを切々とした歌唱で見事に歌い上げました。これは一度是非聴いて欲しい録音だと思っています。
「ニアネス・オブ・ユー」のバックのピアノは、ビル・エヴァンスです。1950年代後半、ジャズがとても幸せだった時代の香りが歌からも演奏からも聴くことができます。ジャズ・ヴォーカルってステキだね、と言えるような歌唱でした。