鈴木清順エッセイ・コレクション (ちくま文庫)
むかし上映会の企画で、清順さんの対談を聞いたことがある。
映画に出演していた藤田敏八や大楠道代といった面々が登壇し、場を盛り上げようと懸命に話すさなか、イヤに監督の口数が少ないと思っていたら、壇上でひとり清順さんは居眠りをしていた。
話を振られ居眠りが発覚した監督に、会場の一同は唖然。
「食えないジイさんだなぁ」 とコチラは思ったが、 「鈴木清順らしいなぁ」 と感じた古いファンも相当数いたことだろう。
そんなトボけた鈴木清順を見ていたこともあり、その後、彼の文章を読んだときには、その饒舌さと熱気に驚かされた。
清順という人は、あまり自分を語らない人だと思い込んでいたからだ。
米兵相手に商売する女たち (洋パン) との共同生活を描いた、 『洋パンと 『野良犬』 と自動小銃』 では、終戦直後の猥雑さとともに、女たちのたくましさと著者の鬱屈した怒りが、むせかえるような文章でつづられている。
うだつの上がらぬ革命家をとおし、人間の生と死を冷たく鮮やかに切り取った 『あだ花』 。
ヒットラー総統にあこがれた少年時の体験をつづった 『わがナチ体験』。
ファシズムを礼賛するわが国の軍国少年たちというのは、こんなふうに無邪気だったのだろうか。
『アナキストは誰だ!』 は、大杉栄50回忌追悼講演の原稿。
自分が大杉栄を映画にしたらどうなるのか? 自身の映画作法を解説している点が興味深い。
意味不明なシーンや唐突な場面展開などで、一般観客にはワケのわからない映画にも見える清順作品も、どうやら監督の頭の中では、見せ場たっぷりの物語が大スペクタクルとともに展開しているらしい。
『ゆき あめ かぜ』 という文章では、映画 『けんかえれじい』 終盤、ヒロインが主人公と決別する二・二六の雪のシーンが語られている。
清順監督によれば、あの雪は、どろどろした日本人のどす黝い血のかたまりであり怨霊なのだそうだ。
その意図が、成功したか失敗したかはともかくとして。
鈴木清順全映画
鈴木清順大好きな出版社の担当者と著者が情熱を傾けたという本(あとがきより)
日活からフィルムと部屋を借りて、こつこつほしいシーンを探したというカラーページ
一つ一つの作品に対する詳細な資料。(非常に膨大。特に初期作品は資料を探すのが大変だったのでは)
生き生きとした対談。
カポネ大いに泣くを撮影した頃の清順インタビュー
清順映画への熱意が充満したいい本です。
夢ニ公開時の資料が付属したものを持っていますが、
新作狸御殿までの資料の追加や、映画以外の活動(演出したドラマ作品やアニメへの関わりとか)についても
補足したものが出るといいなと思っています。
刺青一代 [VHS]
終盤の驚異的な様式美が有名な本作は鈴木清順全盛期の代表作であることは間違いない。
『野獣の青春』『関東無宿』『肉体の門』『東京流れ者』『けんかえれじい』『殺しの烙印』…等々の脂の乗り切った時期の作品達並び称される『本当の鈴木清順傑作群』のひとつ。
が、
DVDが出ない。ソフト化自体もこのVHSだけのようだ。…そして実のところ私もこのソフトをどこかのレンタルで借りて観ただけなのだ。
清順の映画は(ルパンやVHD作品は除いて)『狸御殿』までで47本ある。ソフト化されていないものも確かに多い。そう考えると私も半分も観ていない。だが、『刺青一代』は別格のはず(と勝手に思う)。
最初のVHS以後ソフト化が進まないのは何か事情があるのだろうか。(題名のせいか?)
終盤の美しいシーンの数々をまた見たい。
高橋英樹にスポットライト、パッと傘をひらき歩いていくシーン。
スパンッ、スパンッと襖を開けていくときの美しい襖の青や黄色。
死闘を真下から映した驚きの画民構成(透明のアクリル板を組んだそうな)。
シーンとしては短いが、凝縮された究極の『清順美学』だったように記憶している…。
DVDを待ちます。出ないかな。
殺しの烙印
とにかくかっこいいです。
「すべてが狂ってる」が一枚のジャズアルバムとして聴けるのに対して
こちらはサントラらしいサントラ。
これほど素敵に胸躍るサントラになってるとは。。
最初に聴いたときはもう喉の奥がぎょくぎょくしてくる程感激。
このアルバムを待っていた清順ファンはかなりいるのではないでしょうか。
大和屋竺氏の哀愁感たっぷりのあのテーマ曲だけでも買う価値はあります。
個人的に「殺し屋のボサノバ」は目眩がするほどしびれました。
清順ファンはもう涙を流すほど喜ぶサントラ…だと思っております。
日活映画音楽集~監督シリーズ~鈴木清順
こんなに素晴らしいCDがあったとは!まぁ、解雇しておきながら今頃、清順で儲けようっていう日活もずる賢いが。それはさておき中身といえば解雇のいちばんの原因になった永遠の名作「殺しの烙印」から「けんかえれじい」、そして僕の大好きな「悪太郎」と「くたばれ悪党ども」まで。もう「殺しの烙印」の殺しのブルースを聴けるだけでもニンマリなのに、ホントお腹いっぱいのCDです。これ聴きながら清順の著書を読んだりすると清順ワールドに一瞬でワープできます。
清順の映画でみんがよく言う「わけわからん」(僕は一度も感じたことがないが)。一見、清順は独りよがりの脳内映画を作ってるように思えるが、音楽を聴けばそれはまったくちがうことに気づかされる。「殺しの烙印」しかり、他の映画でも絵と音がばっちり合っているのである。これは決して彼が独りよがりではないことの最もの証拠ではないだろうか。
とにかく百聞は一聴に如かず。清順ファンにはマストアイテムである。