ブエノスアイレス【字幕版】 [VHS]
それぞれの意見で違うと思うのですが、この映画は、ひとくちでいうと、「愛の死と新たな出発の物語」というところでしょうか。 映像も綺麗だし、ウィンと再び出会ったところから幸せなファイの心情をあらわすかのように画面がカラーになったり、、と色々工夫されていると思います。 でも、どうしてだか、私はそんなに好きになれませんでした。 ファイという一人の人間の成長を通して「愛の死と新たな出発の物語」という主題を描き出したかったのかもしれないけど、感動を覚えなかった。
ブエノスアイレス [DVD]
性懲りもなく、喧嘩別れを繰り返す、腐れ縁の二人。
純真でまっすぐ なトニー・レオンとジゴロのようなレスリーの歯痒い愛。
クリストファー・ドイル独特のカメラワークでスクリーンはカラーになったり白黒になったりを繰り返す。それをピアソラのタンゴが冷ややかに彩っている。この映画のなかで、チャンがタバコをもらい火するシーンが印象的だ。温かいオレンジの灯を通してチャンの蒼白い端正な顔が浮かび上がる。そして目を閉じると長い睫毛が影を落とす。彼のすべての仕草が媚びを売っているようで、観ているだけでドキドキしてしまう。
一方、トニー・レオンは一見すると大人の渋い男なのにふとした瞬間少年のような愛らしさを見せてくれる。保護欲が強い分、制服欲も強い。最後に出てくるイグアスの滝が彼の内面を表しているかの如く激しい。こんなに役になりきっているトニー・レオンだが、現地に着くまで自分がゲイ役である事を知らされていなかったという。
レスリー・チャンを亡くした事は香港映画界にとって大打撃だろう。
この映画のラストを観ているとチャンの最期はああだったのかと気が滅入ってしまう。
ブエノスアイレス午前零時 (河出文庫―文芸コレクション)
『ブエノスアイレス午前零時』と聞くと、南米を舞台にした壮大な物語か、と思ったのですが、実際には作品の舞台は辺鄙な雪国のはやらない温泉旅館です。
そういう舞台設定なのでどうしても、川端康成『雪国』のイメージと抒情が先入観となって頭を離れない、という状況で読んでしまいました。ただ、読了後もそのイメージは壊れることがなかったので、この作品自体にも、先入観と期待を裏切らない雪景色の情緒と日本語の描写の旨さがあるということだと思います。
作品には美しい芸者は登場しません。主人公の冴えない孤独な青年と、ヒロインの盲目の物忘れの激しい老女が踊るのですが、どう考えたって美しくはないはずのその場面が、ブエノスアイレスの雪とあいまって、どうしても醜い場面とは感じられないのです。
温泉卵の黄身の半熟加減のような、つかみどころのない味わいです。
ブエノスアイレス Blu-ray 愛蔵版
ウォン・カーウァイ監督、レスリー・チャン、トニー・レオン主演の97年の映画。
個人的に思い入れの強い作品、あきらめていた中でまさかのBlu-ray化。
版権が切れるのでこの機にBlu-ray化されたようです。
作品の概要は省略します。
30代半ばの一番セクシーだったころのレスリーが、見事なはまり役で
伸び伸びと自分自身を演じているかのような本作。
C・ドイルのざらついた質感のフィルムが独特の雰囲気を醸し出します。
トニーはアルゼンチンに着くまで役柄について知らなかったそうですが、
そうとは思えないほどのリアルな役作り。
W・カーウァイはとにかくフィルムを回して役者にほとんど演出もつけず、
簡単にセリフだけ伝えて(時にはなんかしゃべってと)役者の地力を
試すかのような撮影方法だったそうです。
だからかもしれませんが、ウィンもファイも実在の人物のような
リアルで愚かな人間臭いキャラクターになっています。
アストル・ピアソラ、カエターノ・ヴェローゾなど、音楽のチョイスの
センスの良さもカーウァイならでは。
映像については、劇場公開版はもともと鮮明な映像が売りの映画ではないので、
HD化され画質は綺麗になっていますが劇的に変化はしていません。
一方、デジタル復元版は色味も調整され鮮やかではっきりした映像になっています。
オリジナルのフィルムにはこれだけ情報量があったのか、と正直驚きました。
劇場公開版では気付かなかった物が多数あって新鮮でした。
トニーが投げた卵の殻、ゴミ箱に入っていなかったんですね(笑)
15年経って初めて気付きました。
劇場公開版は露出を上げてコントラストを強調した、意図的に粗く作られた
映像だったようです。
ただ、どちらが良いかと言われると、好みの分かれるところですね。
劇場公開版の褪せた色味の方が、個人的にはこの映画に合っている様な気がします。
料理は圧倒的にデジタル復元版の方がおいしそうですが。
また、特典としておそらく宣材用にあったスチール写真をHD画像にて多数収録。
スライドショーで観ると映画を追想できます。
映画としては何も言うことはありません。
愛蔵版としては、もう少しプラス何か収録して欲しかったというのは
贅沢な望みでしょうか。
あとジャケットはUSブルーレイ版の二人がタンゴを踊っているバージョンの方が
良かった。
★は5つです。
ブエノスアイレス 摂氏零度 [DVD]
「ブエノスアイレス」のアナザーストーリー+メイキングだが、本編に採用されたなかったカットが次々と披露されていて、そのひとつひとつの完成度の高さもさることながら、ウォン・カーウァイ監督がこの映画のためにいかに多くの素材を用意し、またいかに多くの映像とストーリーの選択肢の中から本編を編み上げていったのかがうかがい知れて改めて驚嘆させられる。
たったひとつのストーリーを紡ぎ出すために、自らが模索しながら作り上げた部品の多くを削ぎ落としていく作業はさぞかしつらいものではなかったのだろうか。そんな作り手側の苦しみや飢餓感がひしひしと伝わってくるドキュメンタリーであった。本編「ブエノスアイレス」では、最後にたどりつく場所としての「行き場のなさ・地の果て感」が漂っていたが、この「摂氏零度」では時間の流れのなかでの「先のなさ・終極感」とでもいうべきものを感じた。