デーモン・アルバーンという人には常に育ちの良さを感じる。中産階級の自由で芸術的な環境で育った彼らしい知的でコンセプチュアルな匂い。階級意識とルサンチマンを武器にのし上がったギャラガー兄弟や、悲壮だけど実は甘い内省世界を優秀な仲間と共に芸術開花させたトム・ヨークとも違う、"アーティスト”として最も正攻法なやり方。中期ブラーのアルバムやゴリラズの設定など真骨頂といえるだろう(と同時にちょっと頭でっかちにも見えたり、、)
という訳で今回の初のソロ名義のアルバム。自身の半生を振り返ったような内省的ソロ・アルバムと紹介されているが、いかにもソレ風のジャケや文明批判的な
タイトルをそのまま本気にしていいのかどうか。例えば
タイトル曲。ロボットみたいにルーティンをトレースしている我々の人生→『Park Life』の成れの果てを気怠く歌う。でも、やるせない心情吐露、というよりも皮肉混じりの諦観を感じる。そして、淡水画のようにさりげなく描き込まれたサウンドと、そこに見事にはまる彼の声質。わかりやすいコミカルさを排したことが(唯一「Mr. Tembo」(象さん)は、息子に捧げたという可愛らしい曲だが)、かえって乾いたユーモアを浮き上がらせているように思う。やっぱりも、今回も計算尽くってことだろうか、そういう意味では今回は一番巧妙→つまりキャリア最高傑作と言ってもいいのかもしれない。
90年代でイギリスが最も輝いていた94年から97年までを中心に描かれています。
ちょうどこの時期にイギリスにいたので、この時期のムードは忠実に描かれていると納得してます。
95年のオアシス対ブラーの熱狂振りはすごいものがありました。8月のシングル同時発売では結局ブラーが勝ちましたが、個人的にはブラーのほうが1ポンド安かったのが効いたのではとも感じます。日本ではブラーの人気はオアシスほどではなかったようですが、イギリスでは男(特に学生)の支持がかなりありました。なんでも前作のパークライフの歌詞は相当に刺さったようです。
この時期は他にもパルプが大爆発し、レディオヘッドやスーパーグラスなど音楽的には自信に満ち溢れていました。
サッカーではマンチェスターUのカントナが観客に蹴りを入れて引退に追い込まれるという事件もありましたが、プレミ
アリーグも輝いており、映画も「フォーウェディング~」や「トレインスポッティング」など絶好調でした。(そういえばMr.ビーンってのも盛り上がってました)
イギリス中が大きな変革のエネルギーに満ちていて、労働党の政権奪取でそのピークを迎えるのですが、ダイアナ妃の死あたりからその勢いが失速するというのは、はじめて知りました。
この時期のイギリスに興味のない人はこれを見ても楽しくないと思えるのですが、ひとつの国で起こった栄枯盛衰の切ない物語としては抜群の作りです。
このアルバムは1回聴いたときに、いいと思う人はあまりいないかもしれません。それは、デーモンアルバーンという人物が初に近いソロを出したという事への過剰なほどの期待感があるからかもしれません。
しかし、その期待をあきらめ、2回3回と聴くうちに好きになり、ふとした時に「エブリデイロボッツ聴きて〜!」と思う作品です。
そういった意味でもしかしたら彼のキャリアの最高傑作かもしれません。
そして結果としてはあの期待感は正解だったということになるのかもしれません。
ああ、やっぱりデーモンはすごかったんだと・・・。
ブラーでもなくゴリラズでもなくグッドバッドアンドクイーンでもなくロケットジュースアンドムーンでもなく海外ミュージシャンとのコラボでもなく舞台の曲集でもない、ありのままのデーモンアルバーンの、ジワリと良さが来るアルバムをお楽しみください。
初回特典DVDは収録曲のライヴ映像、デーモンによる楽曲解説、ビデオクリップと、このアルバムのイマジネーションをさらに掻き立てる内容で、充実しています。
日常に自然と溶け込むこのアルバムは、個人的に彼の作品の中で、ブラーの全アルバム、ゴリラズのディーモンデイズ、グッドバッドクイーン以来の好きなアルバムです。