本書は、神聖
ローマ皇帝カール5世を知るための本としては最高峰のものだろう。
皇帝は16世前半の欧州の最高権力者として君臨した人物であるが、日本での知名度は低い。
にもかかわらず、2013年に3冊もの関連本が相次いで刊行された(既刊は10冊に満たないから、これは驚くべきことである!)。
そのうちの1冊である本書は、実は1992年に刊行された「カール五世 中世ヨーロッパ最後の栄光」(東京書籍)の文庫化である。
この本がなぜ最高峰なのか?それには大きく3つの理由が挙げられる。
一つ目は、複数の国家に跨る彼の複雑な歴史をバランスよく織り交ぜていること。
「日の沈まぬ帝国」と呼ばれた彼の支配地域の出来事は複雑で多岐にわたるが、著者はポイントを絞り、読み手に無用な混乱を与えない。
二つ目は、平明な語り口の中に風格のある文章表現が使われていること。
本書の元本は、当時高校生だった自分にも非常に読みやすい内容だったのを憶えているが、
今こうして読み返してみると、品格のある言い回しや慣用句が随所に散りばめられていたことを再発見できるのである。
そして三つ目は、彼に対する「愛」の大きさを感じること。
彼の功績は栄光に満ちたものばかりではないが、本書において彼は徹底的に良き君主に描かれ擁護されている。
これは、対象人物に対する並々ならぬ愛ゆえのことであろう。
約20年前、元本に出会ったことで皇帝の足跡を辿る私の旅は始まった。
今ふたたび文庫本として世に出ることで、多くの人々が手に取り、彼に興味を持ってくれることを願う。
なお、本書の前編ともいうべき「中世最後の騎士 皇帝マクシミリアン一世伝」(中央公論社)の文庫化も熱望したい!!