日本史上最大のミステリーと言われる、本能寺の変。
明智光秀が主君である
織田信長を討ったこの事件には、「実は光秀は実行犯に過ぎなかった」とする“黒幕説”がいくつも存在します。
本作は、この『本能寺の変』に焦点を定め、事件の5年前からスタートして、黒幕諸説を次々と(全てではありませんが)俎上に乗せながら進行していく、一種の歴史ミステリ。
晩年の信長は、力が強大になるほど暴走して行ったと言われており、本作はその観点から、周囲の武将や公家達に恐れ・恨まれながら『本能寺の変』という悲劇へ向かって突き進む信長の姿を描いています。
読者は、天正10年6月2日に本能寺の変が起こることを知っていますが、劇中の登場人物達はそうではない・・・というところがミソで、読者だけがタイムリミットを知っていることからサスペンスが生まれ、「何が起こるか知っているのに、どうしてそうなるのか、展開が読めない」という歴史ものならではの醍醐味を堪能させてくれます。
もう一点、本書の大きな特色は、語り手が森蘭丸であること。
世に
織田信長の漫画は数あれど、これほど信長と蘭丸にスポットを当てた作品は、ちょっと類を見ないのではないでしょうか。
森蘭丸といえば戦国一の美少年、というイメージがありますが、本作の蘭丸も、女性以上に可憐で可愛らしく描かれています。
それまでの日本の仕組みを破壊し「神になる」と豪語する信長に、小姓頭として最後まで忠節を尽くし、守ろうとする蘭丸。
謀反の気配を察知した彼は、何とかその動きを未然に防ごうとしますが・・・
語り手といっても、本作の全てが蘭丸の視点で描かれている訳ではなく、蘭丸の思いも及ばぬところで、信長の天下布武への計画を覆す陰謀が着々と仕組まれていきます。
この描写の仕方がまた、面白いです。
信長や蘭丸が主人公というより、本能寺の変という事件そのものを主役として、光秀をはじめとした信長を取り巻く様々な人々の思惑を描き、解き明かしていく、群像劇とも言えるでしょう。
果たして、真の黒幕は誰なのか。
一体どのような結末に着地するのか予測がつかず、続刊が非常に楽しみな作品です。
岡村賢二先生の戦国武将漫画『長宗我部元親』(SPコミックス・全2巻)を一冊に収録した、廉価版のコンビニコミックです。
漫画本編については、
四国で活躍した稀代の名将・長宗我部元親の生涯を綴ったもので、合戦の駆け引き・国盗りの政略あり、肉親との死別や結婚・跡継ぎの誕生など人生の哀歓ありの内容になっています。
戦国武将の漫画には色々な切り口があり、例えば同じ岡村先生の作品でも『第六天魔王信長』のように大事件の周辺数年をクローズアップして切り出したもの、『島津戦記』のように合戦を主軸にその地方の歴史を俯瞰していくものなど様々ですが、本作は長宗我部元親という一人の武将に焦点を絞り、その人生をほぼ最初から最後まで丁寧に辿っています。
特に、悲劇的ながらもどこか爽やかな諦観を感じさせる最終回が素晴らしいです。
今回のコンビニ版は、単行本では未使用のカラーイラストが表紙を飾っているのをはじめ、目次や奥付のページに至るまで新たにしっかりとデザインされており、手抜き感が全く感じられないところがとても良いです。(欲を言えば、同作者の『島津戦記』にあったようなキャラクターの設定画や、『
明智光秀』の時のようなコラムコーナーの長宗我部版も見てみたかったですが、さすがにそれは欲張りすぎでしょうか…)
ともあれ、単行本2冊分のボリュームで税込550円はかなりお得感があります。
長宗我部元親という武将が好きな方、興味のある方ならば、手に取って損はないのではないかと思います。