みなさん酷評されていてびっくりしました。このドラマを見るまで、私にとって矢沢永吉は笑いの対象だったんですよ。演歌にしか見えないロック、ギャグにしか見えないビッグのカリカチュアとしての矢沢永吉。ところがこのドラマを見てリスペクトの感情が沸いてきたんですね。この人はファンのために職業矢沢永吉をやっているのだ、と。ストレートに役を演じるのではなく、矢沢永吉を業として一生演じ続けることを決心した一人の男が矢沢永吉が演じる役を演じることの困難さ…があるはずなのにそれを感じさせない。広く一般大衆に矢沢永吉の凄みを伝えることができたことで、このドラマは十分意味があったと思います。たとえそれがファンにとっては許されない暴挙だったとしても。少なくとも私にとって、矢沢永吉は嘲笑の対象からリスペクトの対象に替わった。私と同じ一見さんは多かったはず。矢沢を国民的ヒーローに押し上げるきっかけの一つとして、十分意味のある作品だったと思う。
内田春菊原作「物陰に足拍子」をドラマ化したもの。R−15指定。
みどりちゃん役の子が原作のイメージ通り過ぎて驚きます。
あと義姉役もかなりいいです。
相手役が
加藤晴彦で、当時十代であろう、なかなか体当たりな演技をしております。
窪塚洋介が、小林みのるというキモイ青年を味のある変人に仕立てています。
原作が、外の世界へ向けて言葉少ないみどりちゃんの独白によって進んで行くのに対し、
ドラマは独白部分が削られているので、
みどりちゃんが単に一風変わった人にしか見えないのが残念。
ドラッグのシーンがカルト集団に変わっていたり、
家が普通の一戸建てで、原作の和室の襖に鍵という、
その気になればどうにでもなるあやうい線引きの雰囲気などが伝わってこない。
みどりちゃん役の子がかなり良かっただけに惜しまれます。
物語冒頭から、身近な人が一人ずついなくなる恐怖。(この部分に本作の魅力を感じます。)
その恐怖は、日常に静かに迫り、広がり、そして一挙に拡大した。
いきなりパソコンが勝手にインターネットにつながり、画面に「
幽霊に会いたいですか」のメッセージが浮かぶ。
パソコンに映る自分の姿と部屋、モデムの接続音、薄暗くさびしいバス、赤いテープのあかずの間、頭にかぶった黒いビニール袋、
「助けて」の声と「助けて」の文字が一面に書かれた壁、幻ではなく実体を持ち触ることのできる
幽霊(歩いてくる途中で、かくっとなる様が怖い)などなど、
象徴的で断片的なモチーフの積み重ねにより描かれる恐怖が効いています。
直前まで話していた知人、友人が、壁の人型の"染み"だったりというカットバックの妙や、
また、ワンカットでの飛び降りシーンは、その自然さにインパクトがあり、それぞれのシーンの描き方がさすがです。
キャストでは、
麻生久美子が出ていたこと自体忘れていましたが、麻生、加藤、小雪と、当然ですが、みんなの若い頃を再見できます。
(黒沢監督は、とにかく普通の若者を使いたかったようです。)
DVD[デラックス版]では、メイキング(含むショートインタビュー)も
コンパクトにまとめられていて無駄に長くなく、面白いです。